65/夏の夜風と醜い自分

 居酒屋での会合が解散された後、一人、夜風に吹かれながら志麻は暗い道を歩いていた。


 このまま、道路に倒れ伏してしまいたい。急に襲われたそんな衝動を抑制して、街灯にもたれかかることで、何とか身体のバランスを保つ。なんだ、宮澤ジョーの姉、宮澤カレンという人物も、ただ他人からの承認のみを求める類の人間ではなかった。あたり前に他人に優しさを向けられる人間。


 そんなあり方に純粋な敬意を抱く一方で、志麻は自分がみじめになる。他人を幸せにする余裕なんてなく、今でも母親に対する苦しく、激しい気持ちを引きずっている。自分という存在は醜い。そういえば、今でこそ詩の趣味に転化しているが、幼少期は、絵を描いていた。街を、世界を、強大な怪獣がめちゃめちゃにする、そんな絵だ。全部壊れてしまえばいい。今でも、そんな気持ちになることがある。


(ガンディーラ)


 内側にある情動が大きすぎて言葉が追いつかない。だから志麻が書く詩も、どこか他人には理解されなくて。


 志麻は、そのまま本質能力を発動させると、もたれかかっていた街灯を光の粒子に解体し、90度だけ角度を変えて再構成してみせた。申し訳ない。今宵、苦しさを紛らわせるために、少しの悪戯だけは許してほしい。


 この本質能力には感謝している。言葉で表現できない部分の激情を、世界にある機構的なものを再構築することで、発散させてくれる。


 自分は悪い人間だ。それでも悪い人間なりに、拠り所として持っている綺麗な気持ちもある。


(最後まで、アスミの側にいるんだ)


 普通の綺麗な心の志向を持てなかった人間なりに、この一線だけは守りたい。


 夜中。空に上っていた月が、志麻にはフとしたきっかけで消えてしまう類の、儚いものに映っていた。

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