第三話「拠り所の守り人」

49/夏休みの学校

 第三話「拠り所の守り人」


 一年生に割り当てられた学校のロッカースペースは、風通しが良い昇降口の近くにあり、またこの時間の陽射しからは影になる位置にあるからだろうか。外界の熱から隔離されて、ひんやりとしている。自分のロッカーから日本史と世界史の教科書を取り出したところで、ジョーのスマートフォンの通知音が鳴った。リンクドゥの秘匿グループ「非幸福者ひこうふくしゃ同盟どうめい」内のメッセージ通知である。


 リンクドゥでもアスミや志麻しまとやり取りをするようになって、色々分かってきたことを少し。


 例えば、牛人との戦いから一週間ほど経った現在、校舎の三階が倒壊したため、ジョーの高校は、夏季講習を一時停止する旨が生徒及びその家庭に伝えられている。ただし倒壊の理由は、爆発事故及び、原因は調査中となっており、何らかの情報操作が行われているのが、当事者だったジョーには分かる。あの夜のことは、アスミが言っていたように「なかったこと」になっている。あの日、戦闘の後、進藤しんどう真由美まゆみは病院に運ばれ、人間の姿に戻ったインヘルベリア先生は何らかの集団に「引き取られて」いった。この街で起こった戦闘の事後処理をする類の人達がいる、ということになる。アスミと志麻の説明の範囲だと、この街のオントロジカの塊に関して、収奪者側にも、守人もりびと側にも加勢はしないが、「まだオントロジカの存在を世間に公表すべきでない」という点で一致している集団の人間たちだという。そのような集団に関して、いくつか組織名を二人から伝えられていたが、表側では一般的に名も知られている企業、宗教団体の名前などが含まれていたので、ジョーは驚いた。時代における「過渡期」という言葉をアスミは使っていたが、一般人の大多数が存在を認知していない一方で、オントロジカをめぐっては、様々な勢力が表の顏と裏の顏を使い分けながら、それぞれの立場で動いている状況になっているらしい。


 リンクドゥに届いたメッセージには、現在ジョー、アスミ、志麻で対応している収奪者側の敵、「超女王ちょうじょおう」に関して新たな知見が得られたので、夕方空瀬からせ神社に来るようにという旨がつづられていた。


 短く了解した旨の返事を返して、ジョーもロッカースペースを離れる。夏季講習が停止していたので、意欲のある家庭の生徒は地域の学習塾や予備校に流れ始めていたが、ジョーは少し、勉強は勉強でも自分として興味が湧いてきたことを調べてみようと思っていた。そのための最初の参考文献が、今日取りに来た二冊の歴史の教科書だ。特にジョーに一年次からの積極的な受験のための勉強を求めるでもない両親も、何とはなしに、好きにやればいいと言ったことを伝えてくれている。


 立ち去り際、倒壊した三階に向かって続いて行く階段が、封鎖されている場所を通った。

 せっかく一学期の中ごろに、二年半前の地震のダメージからの修繕が終わった所だったのに、また修復しなければならないな。


 少し遠くには、街のいたる所で作業中の重機が発する重低音が聴こえている。


 壊れては作り直しの、繰り返し、か。そんなことを想起しながら、ジョーは教科書を入れた通学鞄を片手に、校舎を後にするのだった。

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