27/機械の鳥

 早朝、志麻は国道沿いの「山」の上に位置する自宅の庭に降り立った。


 夜通し「宮澤ジョー」に関してネットで検索していたので、表情には疲れが見える。パジャマ姿のままで、髪も乱れている。それでいて目だけは殺気をまとってギラつかせている様子で、これは通常、よそ行きには見せない姿であった。


 肝心の宮澤ジョーであるが、とりあえず中学時代に柔道で全国大会に出たことがある経歴であることは分かった。ただし、一晩かけても分かったのはそれくらい。顔写真もネットでは拾えなかった。あまり、ネットは使わないタイプの男なのか? 基本的に仲間同士での秘匿の会話が中心のリンクドゥにもあたってみたが、やってないのか、やっていても実名では使っていないのか、アカウントは見つからなかった。


 全国大会に出場したことがあるという事実には、率直な畏敬の念を覚えた反面、やがてメラメラと自身では制御しがたい気持ちが高ぶってくるのを感じた。志麻自身は、何らかの自身で勝ち取った社会的評価のようなものは持ち合わせていない人間だった。


(でも、スポーツで優秀だからって、「守人」としては役にたたないわ)


 気持ちを静めるように、自分にそう言い聞かせる。


「いずれにせよ、もう少し情報が必要ね」


 さすがに疲れたので、昼まで寝よう。痺れはじめた頭の半分でそう考えながら、右手の人差し指を天に掲げる。すると、屋根の上から、一羽の鳥が舞い降りてきた。


 志麻の指の上にとまった鳥は機械の鳥であった。このロボティクスな鳥の存在は志麻の能力の一部であり、索敵のような任務をこなす。


 志麻は何やら呪文のような言葉を機械鳥に向けてつぶやくと、勢いよく腕を横に振って、鳥を飛び立たせる。


 機械鳥がいずこかへ飛び立ったのを見送ってから、欠伸あくびをひとつ。


 この時点での志麻の宮澤ジョーに関する気持ちは、疑念と、くだらない男であればイイという期待が半々くらい。


 やがて気づくことになる、ジョーとアスミと志麻にまつわる「縁」の物語について。今はまだ知るよしもない。

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