第四十七章 18
サブマシンガンを携帯したクリシュナの参戦により、流れが若干変わった。
クリシュナは主に真を狙っていたが、真とそう遠くない位置にいる純子も、自然とそれに巻き込まれる形になる。
しかしそれでも純子は、真から距離を取ろうとしない。そうなれば真が集中的に狙われるのが目に見えているからだ。
純子が木の杖を呼び出す。先がぜんまいのように丸まった、いかにも魔法使いが持つような杖だ。
杖の周囲を光の文字が踊り狂う。
「ルーン文字」
来夢がそれを見てぽつりと呟く。
純子による来夢への執拗な攻撃が、この時は止んでいた。来夢はようやく訪れた好機と見なし、大きめの重力弾と、やや小さめの重力弾の二つを作って、上に飛ばす。
光の文字が四方八方へと飛散する。それは意思を持っているかのような動きで乱舞し、プルトニウム・ダンディーの面々と、クリシュナめがけて飛来した。
克彦が自分と来夢を狙って飛んできた光の文字を、黒手でキャッチして防がんとする。
光の文字が黒手に触れた瞬間、光の文字はまるで爆発したかのように輝くと、黒手の大部分を凍りつかせた。
「おおっと!」
怜奈に飛来した光の文字も、怜奈の足元に着弾すると、怜奈の左足を凍らせたあげく、氷で床と繋ぎとめる。
エンジェルとクリシュナにはそれぞれ二つずつ光の文字が飛んでいたが、床や壁に着弾して爆発的に冷気を撒き散らすまでの間、エンジェルは危うげながらも全てかわしきり、クリシュナはわりと余裕をもって回避した。
そのクリシュナを狙って、真が銃を三発撃つ。純子の攻撃を避けた直後に真の銃撃を受け、クリシュナの余裕が無くなる。
明らかに体勢を崩し、完全に隙を晒したクリシュナであったが、真はとどめをさすことができなかった。
純子が横から真の体を抱きすくめると、そのまま転移したのである。
その直後、大きめサイズの重力弾が真と純子がいた場所に落下し、床を大きくクレーター状にへこませた。
「残念……」
来夢が顔をしかめて呟く。純子は来夢の攻撃をしっかりと察知していた。
真と純子は、クリシュナの背を取る位置へと転移していた。わりと近くにハリーがいる。
『喧嘩はやめよーよーっ!』
ケイシーが哀しげな顔になって叫ぶ。
ハリーにしか聞こえないはずのその声に、純子は反応した。そして強烈な霊気の存在を、ここで初めて感じ取った。
目を凝らして霊を見て取ろうとする。するとハリーのすぐ横に、十歳かもう少し上くらいの年齢の、金髪三つ編みの可愛らしい女の子の姿が、純子の目で確認できた。
(これが累君とみどりちゃんが言っていた守護霊かー。確かに凄く強い)
ほんの一瞬のことではあったが、ハリーを護る少女の霊に気をとられた純子は、もう一発のやや小さめの重力弾の接近に対する察知に、少し遅れてしまう。
一方で真は、純子より早く重力弾の気配を感じ取り、これまでとは逆に真が純子を抱え上げて、その場を飛びのいた。
二人がいた場所を重力弾が横切る。重力弾はそのままカーブして、抱き合うように重なった純子と真に飛来する。
真と抱き合ったまま純子が杖を振るうと、床から氷の壁が瞬時に伸び上がった。
重力弾は氷の壁に着弾すると、氷を粉々に砕き、氷の破片を吸い込んで、氷の塊を一瞬作った後、その力を失った。氷の破片が地面へと落ちていく。
エンジェルが真を狙い、クリシュナは二人をまとめて狙い、それぞれ銃を撃つ。
純子が依然として真に抱かれた格好のまま、今度は杖ではなく空いている手を振るうと、電磁場のシールドが発生し、銃弾を空中で静止させる。
電磁波のシールドが消えたタイミングを狙って、真がエンジェルとクリシュナにそれぞれ一発ずつ撃ち返す。
「ハシビロ・フラーイ!」
氷の拘束を解いた怜奈が、高らかに叫び、高々と舞った。
しかし奇妙な体勢だった。真と純子に対して、背中を向けた格好でジャンプしていたのである。
それを見て真は、怜奈が何をするかすぐに気がついた。
「ハシビロ・ムーンサルト!」
二人に背を向けた状態から、怜奈は空中で後方に大きくのけぞり、激しく体を回転させて、二人に向かって落下攻撃を見舞う。
純子と真はそれぞれ左右に分かれて、この攻撃を避けた。
「ぎゃふんっ!」
床に勢いよくうつ伏せに体を叩きつける格好で、盛大に自爆する怜奈。
「ふふふ……今の攻撃、かわされたと思いますか? 違いますよっ。クリティカルヒットですよっ。愛する二人を引き裂いてあげましたからねーっ!」
痛みで半泣きの顔をあげて、何やら勝ち誇る怜奈であったが、誰も耳を貸す余裕は無い。真とエンジェルとクリシュナは銃の撃ち合いを再開し、純子は瞳から赤いビームを放ち、来夢は重力を用いてビームを防ぐ。
克彦が黒手を一本伸ばす。狙いは真の方だ。二人と撃ち合いをしている真は、克彦の黒手が来る気配を察知しつつも、それに対応しきれないと悟っていた。
純子がそれに反応し、克彦の黒手をビームで薙ぐ。黒手が切断される。
真の弾が尽きる。リロードしたくても、遮蔽物も無く、おまけに敵は複数前後にいるこの状況では、非常に難しい。
「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」
「む、侵入者は相沢だったのか」
と、そこにガバディマンとアドニス、さらには城の警備兵達までもが駆けてきた。
「そろそろ潮時かなあ。真君、退こう」
純子が満足そうに微笑みながら言うと、また真の体を横から素早く抱き寄せる。
「そうだな。僕的にはいろいろ成果があった」
真が呟いた直後、エンジェルとクリシュナの銃の引き金が引かれたが、銃弾が二人に届く前に、純子の転移によって、二人の姿は消えていた。
「逃げた。しかも純子はほとんど本気出してない」
来夢が不満げに息を吐く。
「死天使達の血なまぐさい宴はここまで……か」
銃をリロードしてから懐に収め、煙草を咥えるエンジェル。戦いの後の格別の一服だ。
『よかったあ、皆無事でー。ハリーもそう思うよねー?』
(そうだな)
笑顔で覗き込んでくるケイシーに、ハリーは心の声で応じた。
「真という子の反応を見た限り、クリシュナとも知り合いのようだな」
ハリーがクリシュナに声をかける。
「昔の話です。一ヶ月程、傭兵として仲間だったことがあります。あの時とは比べ物にならないほど強くなっていました」
遠い目をして語るクリシュナ。
「あいつは再開する度に急成長している気がするよ。しかし……俺が来たら逃げるとはな……」
アドニスが残念そうに言う。
「史愉を狙っているようだし、きっとまた来るさ。悪いが史愉のガードも頼む。今、あいつにいなくなられても困る」
「同時にガードするの? それでいいの? 分散すると、その分、おじさんの方が今より手薄になるよ?」
来夢が確認する。
「まあそれは仕方ない。史愉がいなければ明日のライブも失敗するから、何とか頑張ってくれ」
言いづらそうにハリーは言った。
***
みどりと一緒に情報収集のために街中を歩いていた累は、定期的に何度か足を止め、身震いしていた。
「へーい、さっきからどうしたのォ? 御先祖様」
怪訝に思って、みどりも立ち止まって尋ねる。
「物凄い悪寒を感じたんです。何度も……」
不機嫌そうな面持ちで累は言った。
「きっと真に何かあったんですよ。やっぱり純子と二人きりにしたのは駄目でした」
「あっそ……」
何となく理解し、付き合いきれんと思いつつ、みどりは歩き出した。
みどりの後を追おうとして、電話が入り、累はバーチャフォンを取る。相手は毅だった。
「いいですよ。部屋に沢山置いてありますから、自由に使ってください」
毅の用件を聞いて、累は微笑みながら許可した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます