第四十章 10

 一夜明けた雪岡研究所。

 昨夜の安楽大将の森での戦いで敗北した五人――ほころびレジスタンスの面々と美香と瞬一は、雪岡研究所へと赴き、純子の治療を受け、そのまま研究所で一夜を明かした。


「あばばば、ここは回復施設だからね~。しかもタダなんだよね」


 みどりが茶化す。リビングには美香、瞬一、凜、晃、十夜、純子、みどり、真、麗魅の、総勢九名が集っている。


「凜さん、みそ妖術無かったら死んでるよね、あの怪我」

「みそ妖術使ってもキツかった……。純子の治療受けてようやく全快って感じよ」


 恐々と言う十夜に、すっかり顔色のいい凜が微笑んでみせる。


「まだ全快とは言えないし、気をつけてね。傷は癒えても、体力低下がしているから。あれは普通なら致命傷だったしねえ」

「そっか。わかった」


 純子に注意され、頷く凜。


「凜さん、俺のボスとしての判断、この件からは手を引きたい」

 晃がきっぱりと言う。


「昨日の始末屋五人に見逃してもらったからね。こっちも先に見逃してイーブンだけど、それでも今度あいつらと遭遇したらヤバいってのもある。それでも筋を通すなら、手を引いた方がいいって判断。あいつらとも、今回だけじゃなくていずれまた関わるかもしれないし、変な因縁作るより、綺麗さっぱり手を引く方がいいと思うんだ」

「あんたがそういう計算を出来るようになったのは評価に値するし、考えとしては悪くないわ。私個人の感情としてはとても飲み込み難いけどね。ちなみに私がボスだったら退かない。感情的な問題でね。でもボスはあんただから、ボスの決定には従うよ」


 晃の考えを聞いて、凜は自分の主張も述べたうえで、不服は無いということを笑顔で示す。


「俺は退けないよ。うちの組織は中枢提携しているんだからさ。中枢の依頼で、奪還した反物質爆弾を輸送しないといけない……」


 重々しい口調で瞬一。


「虚弱な弟を死なせるわけにはいかないから、私も退けん!」


 美香が叫ぶ。虚弱は余計だろうと何人かが思う。


「外部を雇うのは当然の手とはいえ、この状況にある踊る心臓の依頼を受けるだけあって、そうそうたるメンツが揃ったな。僕の知った顔も多いし」


 真にとってオンドレイ以外は全員顔見知りであるし、アドニスとは一度、正美とは二度も戦った間柄だ。アドニスとはつい二週間程前に共闘したが。シャルルに至ってはかつての仲間であり師のようなものでもあり、葉山に至っては恋人の仇である。


「美香とその弟が引き続き戦うとしても、その五人だけ見ても、うちらとじゃ吊り合わなくねーか? シルヴィアでも呼ぼうかね」


 麗魅が純子の方を見て伺う。麗魅も傷が癒えたので、戦線復帰する気でいる。


「一応麗魅ちゃんは、私のマウスの中じゃ一番強いと思うんだけどねえ。超常の力や、改造強化を差し引いた、純粋な戦闘力だけに限っての話だけど」

「おぉっ、マジで? あたしが最強だったの?」


 純子の話を聞いて、嬉しそうな顔になる麗魅。


「僕の知る限りでもそうだな」


 真も一度麗魅と交戦したことがあるし、その後、何度か麗魅が戦っている所を見たが、マウスの中では、これ以上に強そうな者を真は知らない。少なくとも自分では勝てないと認めている。


「私は麗魅ちゃんに大した改造はしてなかったんだけどねー。副作用やリスク軽減して、ちょっとした肉体強化しかしてないけど、そこに元々の才能とか努力とかが加わって、戦闘力順位では一位になっちゃってる感じかなー。能力順位からするとまた話は別だけど」

「なははは、何か照れるねー」

「ふぇぇ~、麗魅姉すごかったんだなァ」


 さらに純子の話を聞いて、さらに嬉しそうな顔になる麗魅。感心するみどり。


「私は何番目くらいなの?」


 強さに執着する凜が、真剣な顔で問う。


「正直凜ちゃんは計測不能かなあ……。私の知らない所でどんどん強化していく感じだし」

「ジェフリー・アレンの魔術を取り込んだくらいで、そこから先は変わってないわ。取り込める能力のキャパシティにも限界があるようだから、その限界を突破し無い限り、迂闊に他人の能力取り込みたくないし」

「んー……戦闘力はちょっとわからない。付与能力の強さも今はちょっとね……」


 言いづらそうな純子。


「能力の強さと戦闘力の強さでまた違うというのが面白いな! 私の能力と戦闘力は何番目だ!?」


 美香が興味津々に尋ねる。


「んー……戦闘力は五番目くらいまでしか見てないんだ。付与した能力の強さのランキングは、全部つけてあるけど、大雑把に見て多分こうかなーって感じだし、結構いい加減だし、気にしなくていいよー。相性の問題もあるからさあー。付与した力の強さや、そこからの伸びを見ると、美香ちゃんは……まあ二桁台に入るし、二桁のさらに上位の方かな……」

「何だかあまり嬉しくない数字みたいだな! 聞かないでおく!」


 二桁の時点で微妙な気がする美香であった。


「十夜は何位くらい?」

「聞かなくていいよ……。どうせ低いだろ」


 晃が勝手に尋ね、十夜は諦めたように言う。


「美香ちゃんよりは低いけど、そんなに悪いってほどでもないよー。二桁台の上位だし」

「じゃあ聞いてみる。俺何位?」

「三十八位」

「うーん……聞かなければよかった数字かなあ。それでも上位なのか……」

「四桁までいるんだし、二桁に入っただけでもかなり優秀な方なんだよねー」


 一応フォローしている純子であるし、その理屈もわからないことはないが、十夜からしてみると、自分が上位にいるとは意識しづらい数字だった。


「最上位には誰がいるんだ? 僕の知ってる奴か?」

 真が尋ねた。


「死んじゃったけど、虹森夕月さんが戦闘力も付与能力も両方一位だったよ。短い一位だったけどねえ……。付与した力の強さは凄くても、活かせなかったというか、三人がかりで敵の能力との相性も悪かったから……」

「今は?」

「付与した力の強さランキングは、生存している子で五位までは、こんな感じ」


 ディスプレイを投影すると、その中に真の知っている名前が三人いた。


 1 暁優

 2 砂城来夢

 5 鈴木竜二郎


「三位と四位は知らない奴だ。殺人倶楽部の二人がランクインか」


 能力の強さという点でも、この三人なら納得できる真であった。


「来夢が二位だと!?」

 その点だけ、かなり頭にくる美香。


「さっすが来夢。重力操作ってだけでそりゃ強いだろー」


 嬉しそうに微笑む晃。来夢と克彦の二人とはウマが合い、刹那生物研究所で出会ってから親しくなった晃である。


「まあ大体どの漫画やアニメ見ても、重力使いは強いのがお約束だしねえ。現実的に考えてみても、そりゃ強いよー」

「でもその来夢が克彦に二度も負けてるって聞いたよ。能力の相性とか戦い方によっては、負けちゃうってね」


 克彦と来夢から聞いた話を、ここで得意気に曝露する晃。


「いっそこの三人を助っ人に呼ばないか?」

「そうだねえ。向こうの都合聞いて呼んでみよっかー」


 真の提案を受け、純子がメールを送る。


「強い助っ人が来ても、俺がいると足引っ張りそうだ……」

 瞬一が自虐的に呟く。


「瞬一は表立って戦わなくていい! むしろ戦うべきではないポジションだ! 頼りないという理由だけではなく、後の仕事が控えているのだから! 身内贔屓しているのではない!」

「あぶあぶあぶあぶぶ、さらっと頼りないことを断言してる美香姉、ひでーなー」


 美香が力強く言い、みどりがおかしそうに笑い、瞬一はうなだれる。


「あのさ、晃。話を戻すけどさ、この件そのものから手を引く事は無いと、俺は思うんだ」

 と、十夜。


「あの五人の顔を立てたいなら、あの五人とは戦わない方針にすればいいじゃない。他は別にいいだろ」

「そっかー。十夜、天才っ。よしっ、やっぱり手を引かないっ。手引いたら依頼者にも悪いしね」


 晃が顔色を輝かせる。途中で引くのは正直気が進まなかったので、十夜の理屈に乗って続行する方を選んだ。


「美香や瞬一の方はともかく、あたしや晃達は、情報屋の護衛しながら、反物質爆弾の場所を突き止めるって依頼だったのに、情報屋置き去りにして話進めちゃってるな」


 麗魅が苦笑気味に言う。


「竜二郎君は別の仕事が入ってるみたいだよー。来夢君は来れるって。克彦君も一緒だけど。優ちゃんもオッケーだって」


 それぞれの返信を見て純子が報告する。


「ヘーイ、ついでに御先祖様も働かせたらどうよ? あと純姉御大も出陣のサービスつきで」

「累は強いのに何故か負けるから……。それに、殺さなくていい相手も殺しにかかるし、いろいろ面倒だし、やめとこう」


 みどりの提案をあっさりと却下する真。


「私は他にすることあるし、パスね。あと、フォローしとくけど、私と戦った頃の累君は、とんでもなく強かったんだよー。今は凄く弱くなっちゃってるけど……」


 純子が頬をかきながら言う。今の累は、肉体機能の低下だけではなく、超常の力の方もひどく弱体化している。その理由も、純子とみどりは大体知っている。


「ふわぁ~、真兄、その理屈じゃ御先祖様に永遠に出番無いぜィ?」

「今回はやめとこう。あいつがヘマすれば、あいつも傷つくだろう」

「ヘマする前提かーい。真兄がそんな台詞言ったこと知ったら、御先祖様は余計に傷つくと思うよォ~?」

「いいや、今回は累の出番は無しで。うっかり爆弾を爆発させる事態になりそうだし、やめとこう」


 累推しするみどりだが、あくまではねのける真だった。

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