030_0510 やる気ない彼とキスがしたいⅢ~スパイシーラムチョップ~


 南十星なとせの歓迎会そのものは、つばめと樹里が暮らす五階の部屋で行われた。

 学校から戻り、短冊を書く前に用意されていた、樹里とナージャが合作料理が並び。


「女の子の手料理……! しかもナージャの手料理……!」

「はい。感動している和真かずまくんだけは、デリバリーのピザでーす」

「なんで!? ナージャさん!? そんなに俺に食わせたくないの!?」


 そんな風に、いつもの部室以上に賑やかに食事し。


「やっぱりナージャ先輩、お菓子作るの上手ですね……」

「レアチーズケーキくらいなら、分量間違えなければ誰でも作れますよ。それより手早く品数多く料理作る木次さんに感心ですよ」

「や、私の場合、つばめ先生のおつまみ作ることが多いですから……」


 つばめだけはまだ酒を飲んでいるが、学生たちはデザートで締めていたら。


「あー、今から帰るの面倒になってきました。このまま泊まらせてもらおうかなー」

「あー、俺もそーさせてもらおーかなー」


 ナージャと和真がそんなことを言い出した。

 それに《魔法使いソーサラー》たちは、つばめに視線を向ける。住人が普通の人間ではないため、このマンションには相当なセキリュティが備わっている。そんな場所に気軽に部外者を泊めていいのかと、彼女たちは責任者に無言で訊いていた。


「ん? 別にいいんじゃない?」


 視線に気づいたつばめはアッサリと許可する。セキリュティの意味に疑問を感じるほどに。


「じゃあ十路とおじくん、わたしと一緒にベッドで寝ましょうか?」

木次きすき。ナージャのこと頼んだ」

「そっこーですね!?」


 いつものように笑顔でからかうナージャを、いつものように十路は素っ気なくあしらって。


「じゃあ十路くぅん……ボクと一緒にベッドで寝ましょうか?」

「マジやめろ……」


 しなを作る和真に拳を固めて見せ、そして彼は考える。


(和真を泊めるって言っても、なとせが一緒だからな……かといって他に押し付けるところないし)


 いまだ南十星の部屋が片付いていないので、彼女は十路の部屋で生活している。しかもこのマンションの住人で男は彼一人のため、他に和真を押し付ける先がない。

 どうしたものかと悩んでいると。


「だったらさ、女の子みんなで寝ない?」


 当の南十星が、この場の女性陣にそんな提案した。


「じゅりちゃんトコに押しかけることになるけどさ」

「や、私はいいけど、雑魚寝になっちゃうよ?」

「いーっていーって。ナージャ姉は着替えないだろーけど」

「あ、そっか……つばめ先生、パジャマ代わりになるもの、なにかないです?」

「…………」


 樹里の言葉につばめは、カーディガンの上からでも豊かとわかるナージャの胸元を見て、魂のシャウト。


「調子に乗るな!!」

「なにがですか!?」


 ものすごく理不尽な言葉だった。


「寝間着でしたら、わたくしのをお貸ししましょうか?」

「そうですね、サイズ的には部長さんが一番近いでしょうし」


 コゼットの提案に宿泊の準備が着々と整う。ただし服を借りられることが決まっても、その下もある。やや言いにくそうにナージャはそれも頼む。


「あと、買ってお返ししますから、下着もゆずっていただけると……」

「「…………」」


 その言葉にコゼットとつばめが、ナージャの胸を見て、魂のシャウト。


「「調子に乗るな!!」」

「乗ってませんよ!?」 


 今度は理不尽とするのもどうかと思われる。だからおずおずと樹里がそれをナージャに指摘する。


「や、あの……下はともかく、上は諦めてもらわないと無理では……?」

「部長さんのブラなら、無理すれば入らないこともないですけど……」

「もうその『無理すれば』というのが……」


 この部屋の中で一番胸元が豊かなナージャには、切実な問題かもしれないが、周囲の人間にとっては調子に乗ってると思われても仕方ないかもしれない。

 そしてつばめもまた、別方向へとクレームをつける。


「あとコゼットちゃんが叫ぶの、すっごいイヤミ! どう見てもバスト八三並乳なみちち以上はあるでしょ!?」

「小さいって言われてるみたいでムカツくんですわよ!」

「キミにケチつける資格はない! 文句言っていいの、並のわたし、貧のナトセちゃんジュリちゃん、無のフォーちゃん、計四名!」

「ふぇ? 私、貧乳カテゴリー……?」


 唐突に出てきたつばめの評価に、愕然がくぜんと胸に手を置く樹里を他所よそに、和真と十路は部屋の隅で男同士の会話をする。


「いやー、婦女子の会話というのはなごみますなー」

「男の存在忘れた会話されると、身の置きどころに結構困るけどな?」

「入ればいいだろ?」

「木次の疑問に答えてやれないから無理」


 女性陣の黄色いやりとりが長くなる気配を感じたが、十路はどうしたものかと迷う。ついでにナージャは以前ここに泊まったことがあり、その時はどうしたのか疑問に思ったが、それを男が訊くのもどうかと思う。

 そんな彼の心境を察したのか、つばめがビールを片手に声をかけた。


「お疲れ。後はいいよ。片付けはこっちでやっておくし」

「……じゃあ、失礼します」


 少し迷ったが、和真を促がし、十路はそっと賑やかな部屋を抜け出した。

 しかし、なぜか一緒に野依崎のいざきまで付いて来た。


「女性陣全員で寝る算段つけてるのに、なんでお前が出てくるんだ?」

「一緒に寝るなど面倒でありますから、学校に帰るであります」

「……少しは集団生活に慣れろ」


 協調性皆無の小学生の未来を心配し、十路はジャージの襟首を掴んで、もう一度部屋に放り込んだ。



 △▼△▼△▼△▼



 二〇一号室にやって来て、初めて入った十路の部屋に、和真は意気込む。


「さぁ! 家探しだ! ベッドの下にはどんなエロ本が!」

「ない」

「じゃあ本棚の奥に!?」

「ない」

「……お前、枯れてるな」

「ほっとけ」

「というか、物がない部屋だな……」


 和真は物の少ない部屋を見渡す。

 部屋の広さは破格だが、家具も少なくベッドの下は漁るほどの物は詰め込まれていない。本棚もスカスカで、教科書以外に入れられているのは、《魔法》のためだろう難しい物理の参考書くらい。アヤしいブツがあればすぐにわかる有様だった。

 そもそも娯楽品になりそうな物は、まだ新品同然のノートパソコン程度くらいしかなかった。


「和真。先に行っておく。パソコンのブックマーク開いたら殴る」

「そこか! やはりそこに十路の全てが入っているのか! 無修正動画サイトがブックマークされてるんだな!」

「そうじゃないけど、他人に見せたらヤバいものとか入ってるんだ」

「いや、そこを封じられたら、本気でこの部屋なにもない――」


 なにか暇つぶしになるものと、十路の普段の生活が知れるものを探し、和真は部屋の中を見渡して。

 ファスナーが開いたままのスポーツバッグから、色とりどりの布が覗いているのを発見した。素材は綿や化学繊維で、色は白だけでなく薄いピンクやミントグリーンといった淡い色合いの物もあり、十路の持ち物としては絶対的に奇妙だった。

 当然だろう。それは正式名称・女性用下ばき、一般常用としてはパンツ・ショーツ・パンティーなど、多種の言葉で表される物体であった。


「なにぃぃっ!? 十路の部屋に予想外の代物が!? だったらネタは不要か!」

「なとせのだ。触るなよ」


 和真がいても気にする様子はなく、登校前に運転させていた全自動洗濯乾燥機を開けて、乾いた洗濯物を取り出しながら十路が言う。


「ナトセちゃん、十路と一緒に暮らしてるのか?」

「アイツの部屋がまだ片付いてないから、ここで寝泊りしてる」


 カゴに入れた洗濯ものを十路が床にぶちまけると、ネットに入れたまま乾燥機にかけた物もあった。中に入っているのはファーストブラと、やはりパンツだった。


「だからってナトセちゃんのパンツを十路が洗濯するか!?」

「アイツ、俺が自分で洗濯しろって言ったら、なんて言ったと思う?」

「なんて言った?」

「『匂う前には洗う』」


 ため息をつきつつ和真に答え、十路は手早く服を折りたたむ。なんだか妙に慣れた手つきだった。

 そしてベッドの上に投げ出されていた服もたたんで、スポーツバッグの中に入れてファスナーを閉め、それを彼はなぜか玄関の方へと運ぶ。

 するとタイミングを計っていたようにチャイムが鳴った。だから十路は覗き穴で軽く相手を確かめて、扉を開く。


「おいーっす」


 やって来たのは南十星だった。

 だから十路は、スポーツバッグをそのまま渡した。


「お、兄貴、用意いいじゃん?」

「木次の部屋に泊まるなら、服を取りに来るのはわかってたし。洗濯した服と寝間着も入ってる」

「さんくす~」


 気の抜けた笑顔でバッグを受け取る南十星は、続けて連絡も伝える。


「それから、明日の朝ごはんはいらないから。じゅりちゃんトコで食べるってことになったし」

「木次に迷惑かけんなよ。お前、ただでさえ朝からよく食うのに」

「食う量は変えられん! だから作るの手伝う!」

「なとせの腕前じゃそれが一番迷惑だ……絶対に手伝うな」

「えー!? なんでさ!?」

「なとせのチョコ食べて地獄を見たことがあるからだ……」

「あ~、そういえばそんな事もあったっけ。だけどそれから上達したとは考えないわけ?」

「上達したのか? いつも飯作るの、俺に任せきりだけど」

「…………にはは」

「絶対に手伝うな! 木次とナージャに任せろ!」


 和真にも兄妹の会話は聞こえるだろう。

 そしてキッチンには、朝使って洗ったままの食器が、カゴに二人分入っている。

 いつもここで十路が食事の用意をし、南十星と一緒で食べていることを、部屋の状態と会話の内容から和真が察することは可能だった。


「そんで、今日はあたしの代わりに和っちセンパイを抱き枕にすんの?」

「冗談じゃない……男同士で一緒に寝るか」

「兄貴相手なら気にしないけど、あたしの匂いがついた寝床で、和っちセンパイ寝かせるのもどうかと思うけど?」

「シーツくらいは換える。客用布団があればいいけど、そんなもの用意してないしな……」

「兄貴はどうすんの?」

「寝袋とマットくらいはある。だから今日はなとせに叩き起こされずに寝られる」

「あたしそんなに寝相悪いぃ?」


 和真にも兄妹の会話は聞こえるだろう。

 そしてベッドの白いシーツの上に、黒く硬そうな短い髪と、その三倍は長い栗色の髪が残っていても不思議はない。

 十路と南十星が一緒のベッドで寝ていることを、部屋の状態と会話の内容から、和真が察することは可能だった。


「ん」

「……なぜ唇を突き出す?」

「おやすみのキッスを今ここで」

「アホか」

「あてっ」


 兄妹漫才のつもりで、十路は軽いチョップを南十星に落とし。


「木次たちに迷惑かけんなよ」

「あいよー」


 南十星を送り出し、扉が閉められ、兄妹の会話は終わった。


「堤さん。ちょっとこちらへ」


 そして十路が部屋に戻ると、なぜかフローリングで正座する和真に、静かに床を示される。


「なんだ?」

「少々お話がございます」

「?」


 意図が理解できないながらも十路が腰を下ろすと、和真は重々しく口を開く。


「一緒に暮らしてるなら、ナトセちゃんと一緒に飯を食べてるのは、いいとしよう……」

「俺の味付け濃いとか文句言うから、冷凍食品使うことが多いけどな」

「下着まで洗濯してるのも、まぁ、百歩ゆずっていいとしよう……」

「俺の服と一緒に洗濯するのを嫌がられないだけ、まだマシだけどな」

「日常的にキスしていらっしゃる?」

「するか。さっきみたいに冗談で言うことはあっても、実際やったことない」

「もしかしてナトセちゃんと一緒に寝てる?」

「結果的に。寝る前に引きずり込まれるパターンと、寝た後に潜り込まれるパターン、どっちもあるけど」

「その様子じゃ、着替えを見たり、なんてことも日常的?」

「アイツは俺の前でも恥らいなく平気で着替えるようとするから、逆に俺が逃げてるよ……」

「トイレも一緒……?」

「そんな特殊性癖は持ってない」

「風呂も一緒……?」

「…………」

「一緒に入ったのか!?」

「一度だけ、な……」

「いくら兄妹だからって仲よすぎだろ!?」


 和真に言われ、十路は首筋をかきながら確認する。普通の兄妹よりも近しい自覚があり、そして戸惑いも彼には少なからずある。


「やっぱり和真もそう思うか……?」

「ちょっと異常。普通の兄妹って俺たちくらいの歳になったら、そんな仲良くない」

「長年離れて暮らしてるから、俺となとせは普通の兄妹とは言いがたい部分があるけどな……」

「そう、そこだ」


 和真が芝居がかった仕草で、人差し指を立てた。


「なんで離れて暮らしてたんだ?」

「俺は《魔法使い》の育成校でずっと寮生活してたし、俺たちの親ってもういないから、なとせは五年前から親戚の家で生活してた」


 親しいクラスメイトとはいえ、詳しい話は和真に伝えていない。そして両親の早世を伝えると、気を遣われることがある。

 それを嫌ってあえて十路は、なんでもない事のように端的に話した。


「だったら逆に不自然じゃないか?」


 そんな意図が伝わったのか、和真は謝って微妙な空気にせず、そのままの調子で話を続ける。


「その親戚って、いつも顔合わせるような人だったのか?」

「そういうわけでもない……かと言って仲が悪いってわけでもなかったけど」

「だったら親戚の家で暮らしてたナトセちゃんって、どんな様子だったんだ?」

「俺も詳しくは知らないんだ……」


 首筋をかきつつ少し困った顔を作り、十路は説明する。

 ただでさえ簡単に会いに行ける距離ではない上、《魔法使いソーサラー》だった彼は遠距離の旅行など自由にできなかったため、顔を合わせる時はもっぱら南十星から会いに来ていたこと。

 そしてその時、伯父・伯母が一緒のことはあまりない。話す時は電話越しであること。

 十路も親戚に迷惑をかけるなという小言はしていたし、また南十星当人や親戚の話から、上手くやっていると判断していたため、深く聞く必要もなかったこと。


「成績の悪さだけはよく聞いてたけどな……あと聞いた話といえば――」


 そこまで説明して、十路は口を一度閉ざした。

 南十星とは雑談が多かったが、親戚とは常にしていた話がある。

 それは《魔法使いソーサラー》ならではの問題で、そちらの方が十路にとっては重大だったため、南十星の暮らしぶりを深く知るどころではなかったという事情もあった。


「……まぁ、ともかく、向こうでのなとせの暮らしぶりは、俺もよく知らないんだ」


 《魔法使いソーサラー》の事情は、無関係の和真に話せる内容ではないので、十路はやや強引に話を締めくくる。

 そんな終わり方を気にした様子もなく、和真には珍しく真面目な顔で続ける。


「十路。俺の考えを言わせてくれ」 

「聞かせてくれ」

「長年離れて暮らしていたから、その反動でナトセちゃんが十路に甘えてるって考え方も、確かにできる」

「ふむ」

「だけど、親戚って言っても他人の家だ。親元を離れて別の家で暮らしていたら、女の子はもっとオトナになってると俺は思う。なにも知らない子供の頃ならともかく、五年前なら記憶もハッキリしてるだろうし」

「ふむ。まぁ、納得だ」

「そして、ナトセちゃんはお前にベッタリ」

「それはなぜ?」

「ナトセちゃんは、お前にわざと世話を焼かせてるんじゃないか?」

「わざと……?」


 和真の言うことが理解できないため、十路は額に指を当てて考え込む。


(他人の家とは違うけど、俺も寮生活してたから、親元から離れる気分は少しはわかるけど……)


 寮生活では、自分の洗濯物は自分で洗い、自分の生活スペースは自分で掃除を行う。食事だけは食堂があるから別だが、家で母親がやっていた家事の大半は、自分で行う。

 完全ではなくとも、親元を離れればどうしても自立せざるをえない。


(親戚といっても、なとせはかなり可愛がられてたようなんだが……)


 伯父・叔母夫婦の間には子供がいないため、突然やってきた南十星を実子のように可愛がっていた様子は、十路もうかがい知ることができた。だから安心して生活面について根掘り葉掘り聞く必要もなく、そして夫婦が甘やかしていたから家事ができないとも――


(――あ)


 ふと、十路は思い出した。今やその印象はほとんどないから、彼も忘れかけてたくらいの淡い記憶が掘り起こされる。

 昔の、今とは全く違った彼女の姿を。


(そうだ……なとせが今みたいな性格になったのって、五年前からだ……昔のアイツは泣き虫で、俺の顔を見ればビクついてて、世話するのもひと苦労だったんだ……)


 その時の彼女を知る者は、世界で十路くらいしかいないだろう、脳裏に浮かんだ小さな姿に、彼はこめかみを揉むように手を置く。


(それからずっと俺たちは兄妹を続けて……今もその延長でベタベタくっついてくるのか?)


 五年前に作られた兄妹の関係は、きっと普通の兄妹と同じように、成長と共に自然と変わると考えていた。

 だが彼らは普通の兄妹ではない。血の繋がりはあっても赤の他人に近く、努力を重ねないと現状維持すら難しいへだたりがあった。遠距離恋愛をする恋人のように、積極的に働きかけをしないと、自然消滅してしまいそうな。

 考える十路の顔に、トリックを説明した後に犯人を指名する名探偵のごとく、和真はズビッと指を突きつける。


「つまりナトセちゃんが兄離れできてないからじゃない! お前が妹離れできてないからだ! このシスコンめ!」


 だから南十星は過ぎるくらいのコミュニケーションを取ろうとする。十路が関係を変わることを積極的には望んでいないから。現状維持すら難しい関係だから、過ぎるくらいにしないと、そのまま立ち消えになってしまうから。

 十路は自覚していなかったことを発見し、そして同時に和真の言う可能性を納得する。

 しかし、ひとつだけ納得できないことがある。


「なんで和真はそう思った?」


 兄妹仲が良すぎるという問題定義はいい。そしてその結論も可能性としては納得できる。

 しかし『南十星がわざと世話を焼かせてる』という推論の起点が不明だった。なぜそう思いついたのか、そこが十路には理解できない。

 その質問に和真は自信たっぷりに、彼の性格を知らない女性が見たら惚れこむだろう、白い歯が輝くイイ笑顔で言い放った。


「勘!」


 十路は指先をピンと伸ばし、手刀を和真の喉元に叩き込む。ナージャのお株を奪う地獄突きにはせず水平チョップで。


「ごふ――っ!?」

「根拠もなくシスコン呼ばわりされたくない!」


 今夜の和真は、のた打ち回るフローリングで寝ることが決定した瞬間だった。そんなことを言われて男相手にベッドを譲るほど、十路は紳士でも優しくもない。

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