080_1600 夜の巷を機動戦するⅦ ~古魔王~
初源の《
機密に触れる立場だった
「がっ……!」
爆発で散る
《魔法》も対戦車兵器もなしに、機甲部隊を相手しているような徒労感や焦燥感を覚える。十路なら実際そのとおりの戦況でも挽回可能だが、あくまで
出力は戦術レベルに収まるとはいえ、まともに食らえば即死級の《魔法》を連発されているのだから。しかも例によって、致命的でなければリヒトは避けもしない。
(わかってたけど……洒落にならねぇ……!)
瓦礫が
すれば、擬装のエンジン音なしで動く《バーゲスト》も、同じ物陰に飛び込んできた。
【私でも使える武装がトージの
「戦場
脳内センサーに攻撃の予兆を感知した。イクセスも同じものを感知したようで、示し合わさずとも物陰から同時に飛び出す。
直後に瓦礫の山が暴風雨に変わる。爆発によって元住宅地そのものが凶器へと変化する。
歩兵にとって一番恐ろしいのは、強力な兵器や
【ユーア……! 誘導ロケットの存在意義を理解していますか……!】
【それだけ評価してるってことだから、大盤振る舞いを光栄に思いなさいよ】
高台から
無線接続で十路の演算能力を使い、《バーゲスト》も逃げながら《魔法》で迎撃するのが精一杯。十路が別方向に移動しながら発砲し、飛行中のロケット弾を撃墜してフォローする。
【《
「学生なもんで! ミサイル買える
これも空中で正確に迎撃すると、運動エネルギーの方向が変化して、回転しながら宙に留まる。
投げつけられたのは、リヒトが使っていた急造の
「おらァッ!」
突進したリヒトはジャンプ一番、宙で剣の柄を握り、そのまま落下の勢いと共に切り下ろしてくる。
装填された弾丸は撃ちつくした。迎撃できる出力の《
「ぐ……!」
仕方なく十路は、小銃で片手唐竹割りを受ける。
受け止めるのではなくベクトルを逸らすように使ったが、それでも脳内表示のステータスにエラーが灯る。止め
さすが夫婦というべきか。単体でも強力な相手なのに、連携が完璧で隙が全く見出せない。
リヒトはというと、戦闘開始前のようにふたつの得物を構え直しただけ。追撃はなく、戦闘は一時停止した。
「小僧。ヘミテオス管理システムは起動させねェのか?」
「させないんじゃない……できないんだよ」
「ハッ」
鼻で笑われてしまった――いや、彼の琴線に触れてしまった。
「ンなこと言ってられンのかよ」
(だから、『しない』んじゃなくて『できねぇ』っつってるだろうが……根性論でも持ち出したいのか?)
反論したいが、できない。
「テメェは、自分が《
この場面では場違いであろうが、リヒトにとっては最後の機会であろう、口頭弁論が促された。
ならば十路も、遠慮なく時間をつかって、乾ききった口を唾液で湿らせて言葉を紡ぐ。
「クソッタレだな……」
単なる罵声だが、端的かつ正確な心情だ。
《魔法》があって感謝する場面がなかったわけでないが、それよりも付随する面倒ごとが遙かに多い。そもそも《魔法》がなければそんなトラブルになっていない。収支すればマイナスの人生と判断する。
「こんな力、やっぱり間違ってる」
惑星改造技術の主要にして
なんの因果か十路も、遺伝子学的な確率で、それに選ばれてしまった。
「でも、ケチつけたところで、どうしようもない。クソッタレな運命を受け入れて、生き延びるために
「なら足掻け」
槍と剣が地面に勢いよく突き刺さる。
見た目は満身創痍の上、無手になったが、リヒトの気迫がより危険になった。
ボロボロの格好のまま、リヒトが手を掲げると、
彼を中心に風と砂塵が巻き起こり、その姿を隠した。既にボロボロだった着衣も細切れと化して散ったのも付随する。
(あぁ……こりゃ、死んだな)
十路は他人事のような心境で、リヒトの急激な膨張による煙幕が収まるのを待った。
七つの大罪では色欲を
旧約聖書よりも古い三〇〇〇年以上前の伝承にも元型が存在し、神秘学・悪魔学だけでなく人類史においても最古参。
また一説によると、
しかも悪霊たちを支配するソロモン王の指輪と彼の王国を、一度は奪ったと伝わる。
明らかに他とは一線を画す強大さで表される。
尾は蛇、足はガチョウ、雄牛・人間・牡羊の三顔を持ち、炎の息を吐き、軍旗と槍を手に魔竜に
『改めて自己紹介だ』
戦闘生命体として完成した『悪魔』は、伝説を踏襲しながらも、異なる姿を持っていた。
だが、これまでに人工進化した《ヘミテオス》たちとは違う。管理者No.003たちには共通して存在した、グリム童話の要素がないからだろうか。
身長も体の作りも、人間と大差ない。変化は人の身からの追加だった。完全に伝説そのままなのは、生えた尾くらいか。
肌の色は赤銅色に染まり、ところどころは野獣の毛皮で覆われ、更には動物の骨が部分鎧のようにまとわりついている。
悪魔と呼ぶよりは魔人と呼ばれる姿だろう。
『オリジナル《ヘミテオス》管理者No.004、リヒト・ゲイブルズ。Lilith形式プログラムは《アスモデウス》だ』
地面に突き立てた槍と剣を再度握り、
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