080_1200 夜の巷を機動戦するⅢ ~白兵戦~
(右――!)
白兵戦を仕掛けるのに迷いはない。リヒトは右手一本で剣を肩に担いでいる。その構えでは逆側からの接近を阻止するのは難しく、
「甘ェッ!」
「んな……!?」
《魔法》ではない。いや《魔法》の効果に違いないが、
あまりにも馬鹿げた力技だが、触れられば確実に真っ二つにされる斬撃に、十路は飛び
「オイオイ、クソガキ。テメェが様子見してられる余裕なンてあンのか?」
剣に《魔法》が宿り修復される。形だけのもので、切れ味もなにもないだろうが、その膂力では関係ないか。
肉食獣のものと遜色ない、狂牛の笑みを浮かべての言葉には、同意しかない。
「そうだな」
よって十路は更に下がりながら
同時に右手一本で背負った小銃をずらし、腰だめ状態から
狙いは全てリヒトの頭部だ。しかも『魔弾』ではない。
彼は剣と槍と《魔法》で全て防ぎながら猛牛さながらに迫ってくる。
接近を阻止せんと連射していたが、拳銃が弾切れした。だが慌てず小銃の連射はそのまま、拳銃は
直後に小銃も弾切れしたので、足に叩きつけてリリースボタンを押して
一回転したタイミングで小銃を右手一本で振り下ろし、やはり宙の
(耐えてくれよ!)
すぐそこまでリヒトが迫り、槍を突き出してきた。やはり直接効果をもたらす《魔法》は宿していないため、十路は小銃を持ち変えて叩きつけた。合金の銃身と、身体体能力強化を施した右腕が悲鳴を上げたが、なんとか耐えて穂先を逸らした。
そこで、最初に放り投げた
非常識三連続に毒気が抜かれたか、リヒトは追撃することなく密着状態を維持した。
「大道芸かよ……」
「生きるための
即座に攻撃手段をスイッチすることで相手の意表を突く十路の
一ミリのズレなく
そして、ただの芸ではない。
十路は足元に《磁気浮上システム》を実行し、超跳躍で飛び退く。
直後、一回転してリヒトの視線から体で隠した際、足元に落とした手榴弾が爆発した。
タイミングが遅れていたら自爆していた。だがこの程度を恐れていては、《
まだ空中に体がある間、十路は爆煙の中に更なる追撃を叩き込む。
小銃で放つ銃弾にも《魔法》を宿す。《
「あァ、クソ……いまのは中々だッたぜ」
神戸の明かりで夜空は多少明るいとはいえ、無人島には一切の明かりがない。
「防御しなかったのかよ……」
「する必要あッか?」
一見は満身創痍だ。彼が着ていた衣服はボロ布となり、血まみれになっている。
だが凶悪な笑顔すら浮かべ、実質無傷と言ってよかろう。
「科学者ならもっとスマートに事を運べよ……」
「ブワァカ。科学者のやり方ッつーのは、大抵力技だぜ」
目的の効果を発揮する微生物を見つけるために、大量に集めたサンプルを片っ端から調べる。
有用な薬効を得るための原子式を、スーパーコンピュータで総当りさせて探す。
確かにリヒトが言うとおり、科学者の力技で今の文明が存在する一面もある。
《ヘミテオス》の不死性なら、小火器の火力程度、致命的な攻撃以外は防御せずとも耐えるだろう。
だからといって、プロレスの美学みたいなものを、殺し合いの場で発揮するかというと、違うだろう。
リヒト・ゲイブルズは、頭のネジが吹っ飛んでいる。
(違うのはわかってたつもりだけどな……)
だから、常人ならば肉片に変えている飽和攻撃を敢行した。
それでも、まだどこか、
十路自身もまた《ヘミテオス》でありながら、己を人間だと思っているように。
「イクセス。来い」
ならば、己の人外加減を、もう一段階引き上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます