075_1060 【短編】浩太の小さな大ぼうけんⅦ ~PM18:05~
しばらく待っていると、またも追っ手たちの車が現れたので、イクセスはコンクリート護岸の新湊川へ飛びこむ。幸いにも水量はそう多くないため、水を蹴立てて遡上できる。
(あーもう! 後でトージに洗車させます!)
生活排水を流している水路で、しかも藻が発生している。言ってしまえばドブ川を走っているので、機械でも不快感を覚えてしまう。
ところどころある落差工を飛び超え、すぐ分岐というか合流点に辿り着いたので、真っ直ぐ北へ向かう
より狭くなり壁がそそり立ち、川というより街中に掘られた水路になる。
下から見上げても、辛うじて川側の道路を走って追いかける自動車の姿が見える。まだ追いかけてきている。視覚的に見失ったとしても、GPSを利用して追いかけてくる。しかも切り立った壁面に挟まれて、飛び込んだオートバイなら逃げ場がない、と思われているだろう。いずれ川を遡上し続ければ行き止まり、とも思われているだろうか。
だが、第三宮川橋を
「頑張ったな」
「え?」
学生服姿の青年が橋から飛び降り、走るオートバイのリアシートに着地した。非常識な乗車にも関わらず、危なげは全くなかった。
「ふわ!?」
彼は浩太の体に手を回すと、思いきり上に放り投げた。
「もう大丈夫!」
サーフボードかスケボーのように長杖を立ち乗りし、空を飛ぶ少女が追い抜いた。少年の体を受け止めてそのまま離脱する。
【遅い】
「ムチャ言うな」
十路と樹里、ふたりの
「堤十路の権限において許可する! 《
【LINK OK!】
ならば超人たちと共に、イクセスが戦車としての実力を出しても構わない。
十路がアクセルワークと体重移動で前輪を持ち上げる。応じてイクセスはタイヤの空気圧とサスペンションを操作する。壁に接地した途端に跳ね、通常のオートバイには不可能な跳躍で、水路から脱出する。
「一番、空気砲! 二番、短距離プラズマ!」
【EC-program 《Aerodynamics riotgun》 《Plasma-physics APS》 decompress.(術式 《空力学暴徒鎮圧銃》《プラズマ物理学近接防護システム》解凍)】
次にかかる第四宮川橋は、交通量の多い神戸山麓線で、生活道路とは異なる。苅藻川沿いの道路とは立体交差しており、しかも上に上がる歩行者用通路が接地されて、車道は狭くなっている。
そこをパトカーで塞がれたら、追跡者たちは止まるしかない。
更に後ろもパトカーで塞がれたら、住宅地の中で完全に行き場を失う。
「武装解除して車降りてこい」
誰かへ連絡する時間を許さない。十路は
「安心してください。ケガしても治しますから」
浩太をどこかに置いた樹里もまた、プラズマの刃を灯した長杖と、バチバチ音を立てる雷を宿した左手と共に、全然安心できないセリフを向ける。
修羅場を
だが《魔法》による威嚇効果は充分あった。常人にとっては未知の攻撃手段で、命中精度も威力も想像できない。夜と同じ暗さの中では、プラズマの輝きも一層強く見え、即死も想像するだろう。
それでも後部座席に座っていた男は、顔を強張らせたままこっそりスマートフォンを取り出そうとした。即座に十路が衝撃波を発射し、車を揺らし爆音で硬直させる。
△▼△▼△▼△▼
男たちの思惑はどうであれ、故意に子供が乗ったオートバイを自動車で追い回したのだから、交通法だけでなく刑法違反、殺人未遂が成り立つ。しかも複数の警察官が確認しているのだから、逮捕状も問答も無用の緊急逮捕で手錠がかけられた。
「浩太!」
「
樹里がそれぞれ警察に頼み、異なる場所に置いていたのだろう
「いってぇ!?」
感動の再会かと思いきや、晶は鬼の形相でゲンコツを振り下ろした。
「アンタ、勝手にバイク乗り回して、なにやってるんだか……」
《
しかし罪に問われることはない。浩太の体格では運転できないのは明らか。
加えて自動車に追いまわされるという事態に対し、緊急避難的にオートバイで暴走したという主張が成立する。
イクセスから見れば、浩太に過失はほぼなく、完全に巻き込まれた人間だ。暴走だってイクセスによって有無を言わさず行ったのだし、保護者からの説教を理不尽に思うかもしれない。
だが納得してもらうしかない。社会は理不尽に溢れているのだ。
「まぁまぁ……せめて弟さんの話くらい聞こうよ」
少し考えたイクセスは、ジュリに
『ジュリ。事後処理は私とトージでやりますので、一晩だけその家族につくことは可能ですか?』
『や。晶の家に泊まれるならできるけど……なにか心配ごとでもあるの?』
『なにがしかコウタの情報が渡っていると思われますので、報復が行われた際の用心です。まー無用だとは思いますが、万が一、一晩は、と。それにジュリも、友人に人間兵器ぶりを見せたでしょう? そちらのフォローが必要なのでは?』
『や~、そんなに派手なことはしてないけど……わかった。そうする』
警官に話を通し、樹里も一緒に
入れ違いに、警察側の責任者と話していた十路が戻ってきた。
【トージ。証拠品のUSBメモリーですが、提出は待ってください】
《バーゲスト》のコネクタに刺さったままのUSBメモリーを抜こうとしたので、イクセスは止める。
【まず、警察であっても、安易に提出するのは危険です】
「ヤバい案件なのか?」
【外務省、公安外事、防衛省も関わるかもしれない、そういう案件です。信頼できる、可能な限り社会的地位が高い人物へ渡すことをオススメしますね】
「それなら理事長……あーいや、もう既に警察がタッチしてるからな……大道さんにその話して渡すのが一番か?」
【地域部の冴えない中年刑事に?】
「表向きそうだけど、あの人、警視庁公安部の回し者って知ってるだろ。省庁に顔広いみたいだし」
どこにスパイが入り込んでいるかわからない。組織でも一枚板ではなく、どんな風に利用されるかわからない。
政治的なイザコザに巻き込まれたくない。バトンタッチして後は知らんふりするのが一番だ。
「『まず』ってことは、他にも理由あるのか?」
【えぇ。コウタへのフォローが必要かもしれませんので、利用しましょう。あとできれば、連中のスマートフォンも借りたいですね】
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