070_1630 4th duelⅩⅢ ~慮外千万~
よみうりカントリークラブのコースは、短時間で一変した。
芝生貼りのフェアウェイは、地面を流動体制御操作させたことにより、掘り返された。
パルス・ディトネーションによる衝撃波は、ホールを
かといって本気で逃げているわけではない。彼女の性能ならば遠距離からの一方的な攻撃や、超音速でのヒットアンドウェイも可能なはずだが、それも行わない。
《ピクシィ》による低出力の散発的な攻撃を行うだけ。仮想のアンテナの維持に注力している。
野依崎は、明らかになにかを狙って、付かず離れずの距離を保っている。
「……Complete. (完了)」
不意に低空飛行で逃げ回っていた野依崎が着地した。《ピクシィ》たちを呼び寄せ、《
形状から想定される機能は、なぜか仮想の盾だ。莫大なエネルギーを受け止めて、電力へと変換する素子を重ねて形成している。
全く意味がわからない。
が、なにを
警戒すべき遠隔操作型の《ピクシィ》は、一六基全てで盾を形成している。
一応用心し、周辺を探知したが、伏兵となりうる要素はなにもない。
『
そそり立つ壁のような土の津波を引き起こす。学院で見せた規模とは比較しようがない。野依崎は昨日、腕力で押しとどめていたが、さすがにこれは無理だろうと誰もが考える。
それが少女を押しつぶすよりも前に、《妖精》の守りを剥ぎ取ろうと、地面から亡者のように腕が幾本も伸びる。
仮に野依崎が《
これで終わり。野依崎は無残に潰れて死ぬ。
そのはずだった。
「え?」
なんの前触れもなく、『
彼女が立っていた周辺が赤熱化している。前面に展開していた土の壁は一部溶解している。
体液が一瞬で蒸発するほどの強烈なエネルギーの奔流を、背後から照射されたことを状況は物語っていた。不可視の『砲撃』を行ったモノは、感知可能な領域に存在しないにも関わらず。
「なかなか捨て身の作戦だったでありますが……自分が防御する必要なかったでありますね」
《ヘミテオス》といえど、さすがにこれほどのダメージを負えば、生体コンピュータに壮絶なエラーが走り、
土津波は制御を失って崩れる。その向こうに、浮遊する《妖精》を従える《妖精の女王》が姿を現した。
「今の、どこから……」
「情報不足……
その必要もないはずなのに、野依崎は怠惰な野良猫の態度のまま、『
支援部のことを調べているならば、知っているはず。なにせ秘密兵器なのに、その姿を衆目にも見せているのだから。
「《ヘーゼルナッツ》……?」
半自律高高度要撃空中プラットフォーム。野依崎が掌握している《
だが戦闘機に乗っていた間、レーダーにその艦影は存在しなかった。
「どこに……?」
「太平洋上であります。現在位置からならば、南南東およそ七〇〇キロ」
「な……!?」
そこまで離れていたら、大出力・地上配備型の警戒管制レーダーや、軍事衛星でなければ捕捉できない。
探知できたとしても、弾道・巡航ミサイル以外に攻撃不可能な距離であるため、過度に注視はしない。
届かせるだけならば出力充分なレーザー光線ならば可能でも、直進するため地球の丸みが邪魔をする。ゴルフ場の開けたフェアウェイに立っていようと、絶対に命中しない。
だが成層圏を飛べる戦艦ならば、高度を上げれば射線を確保できる。
「さすがにこれだけ離れていると、機能接続と《マナ》の把握と照準に苦労したでありますが……」
それらの問題が解決しても、まだ問題がある。それほどまでに離れていたら、命中させる以前に狙いをつけることが不可能だ。
ミサイルであれば慣性航法装置やGPSで大雑把に移動した後、別の誘導方法に切り替えて直撃、という真似ができるが、発射即命中のレーザービームではできない。
更に大気や雲があり、標的は人間。暗幕越しにミジンコを撃てと言われてるようなものだ。
「まぁ、時間をかけて、自分を目標にした、収束の甘い
だから野依崎は、位置情報を発しながら動きを止め、防御を行った。彼女自身を標的にし、射線上に『
レーザービームを拡散させることで半ば範囲攻撃に変えて、狙いをカバーすると同時に、防御できるまでに威力に削いで、自滅を回避するつもりでいた。
この方法ならば、野依崎と《ヘーゼルナッツ》との通信を怪しむ以外、『
野依崎は電子戦に
FPSゲームの対戦中に戦略SLG要素をぶちこむような、理不尽と呼ぶべき非常識すぎる戦術も可能とする。
野依崎が語ったとおり。
これまでの情報だけで、彼女の強さを測った気になるのは、早すぎた。
彼女は《女王》。童話の中では絶対の権力者として描かれる存在。
その立場に就く者が前線に立ち、己で剣を振るうようでは話にならない。大局から戦局を見つめ、軍に命令を下すことこそが、本来の戦い方なのだから。
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