070_0230 2nd spoofⅣ ~虎視眈々~


「んじゃねー」


 普通なら肩にかけるスクールバッグを背負った南十星なとせは、それぞれの放課後を過ごす友人に挨拶すると、中等部校舎に背を向けた。改造ジャンパースカートの深いスリットから、レギンスに包まれた足を覗かせる歩みは、真っ直ぐ支援部の部室に向かうつもりだ。


「なとせ」

「おー。兄貴じゃん。今から部室行くとこ?」


 かけられた平坦な男の声に、教室で浮かべるものとは少し違う、家族にだけ向ける無防備な笑顔で振り返る。


「いや、今日は外出る。お前も来るか?」

「どこへなにしに?」

「イクセスの様子見に行こうかと」

「行くよ。てか、昨日の今日で兄貴ひとりで動くのマズいっしょ。ケガもしてんだし」


 帰り時間が分散されているため、朝方ほどはないにせよ、学院敷地内は下校する学生たちで混雑している。


「こっち突っ切ろーよ」


 だから南十星は並び立つ建物のひとつ一号館――管理棟の裏口に、返事を聞く前から入る。

 ショートカットに便利ではあるが、用もないのに立ち入る学生は少ない建物のため、行き交う者の数は外とは段違いだった。


「晩メシどーしよっか?」

「いきなりなんだ?」

「イっちーいないから、移動に時間かかんじゃん? なら帰ってくる頃には思っきし晩メシ時にならない?」

「そうなるな。ま、外で食ってもいいけど」

「久々にぼっかけ食うかー。神戸市民のソウルフード」

「市民暦三ヶ月がなにホザく」


 南十星が先を歩き、数歩遅れて十路が続く。交わされる会話は、兄妹としての何気ないもの。


「久々にブッシュフード食うかー。アボリジニのソウルフード」

「オーストラリアの国民食・謎ペーストベジマイトは? あとお前、先住民アボリジニの血は流れてないだろ」

「パパはゴールドラッシュで来た移民のマツエーらしいから、少しくらい入ってても不思議なくね? あたし、蛾の幼虫ウィッチェティグラブうまし」

「最初の一口を乗り越えれば、イモムシなんて誰でも食える。血なんて関係ない」


 この辺りは色々と何気なくないが、日本在住の一般人基準から外れたこの兄妹にとっては大したことではない。


「イモムシとかカンガルー肉ルーミートはともかくさ。なに食う?」

「その時の気分でいいだろ。あの辺どんな店あるか知らんし」

「食った後、ラブホテルモーテルでごキューケーでもするかね?」

「別にいいぞ」

「おぉ? 珍しく兄貴がノりキ?」

「なとせが行きたいなら。遊び場的に」

「おもろい場所だしね。ラブホって日本の独自文化だし。モーテルも日本こっちのビジネスホテルみたいな位置づけだし。ヤる時は基本自分チ」

「ヨーロッパ圏じゃその手の場所に困るって聞いたことあるな」

「あっちひとり暮らし早ぇし、付き合い始めたら即同棲するとか、そんな理由でラブホないんじゃね? いざとなれば外とか車でとか」


 臆面のなくこんな冗談を交わす兄妹が他にもいるやもしれないが、年頃になれば互いをうとむような、ごく普通の兄妹の会話ではない。

 夫婦や恋人といった別種の、しかも相当に仲がいい間柄でなければ無理だろう。


「で? 俺、なとせとヤるのか?」

「にはははは」


 南十星は豹変する。のだから。


「Whatchoo talkin'bout.(冗談は顔だけにしろよ)」


 足を止め、振り返る。同時に無造作に、けれども素早く正確に突き出された右手で拒絶を示した。


「ギャッ――!?」


 十路がたたら踏んで後ずさる。ギプスをつけた手で片顔を押さえ、その隙間から血が溢れる。


「まだバレてないと思ってたわけ? いくらなんでもあたしらナメすぎ」


 南十星は人差し指と中指にまとわりついた水晶体と血と振り払い、アタッシェケースを取り出したスクールバッグを投げ捨てる。


「どうやって見破ったの……!」

「勘?」

「か……!」


 正気を疑う発言だろう。証拠もなく、怪しいと思っただけで、取り返しのつかない傷を負わせるなど。

 だが南十星にとっては特段のものではない。


「兄貴のニセモノが勝手やってるのは、ぶちょーたちが推測してた。あとまぁ表情とか言葉の選び方とか反応とか、なんとなーく本物と違うのはわかったけど、コンキョっつっても困んだよね。だからまぁ、勘?」


 兄を守ることを第一に置く、純粋すぎる狂気の持ち主からすれば。


「んで? なんて呼べばいいのさ? 『衣川きぬがわ羽須美はすみ』? それとも別の誰かさん? 男か女かもわかんないんだけど? バレてんだから正体見せてくんない?」


 空間制御コンテナアイテムボックスも放り捨て、トンファーを挿したベルトを腰に巻くと、ジャンパースカートを残して、南十星の小柄な体が《魔法回路EC-Circuit》に覆われる。戦闘準備は完了した。


 対する『十路』も学生服を残し、露出部分の肌全てが《魔法回路EC-Circuit》が覆われる。背が縮み、厚みや幅が細くなる。

 《魔法回路EC-Circuit》が完全に消えないが、発光が幾分か抑えられれば、その姿が確認できた。異様と不審にさすがに南十星も眉を動かす。


「……あたし?」


 高等部男子学生服のままで、栗色のショートヘアはワンアップサイドにまとめられていない。だが小柄な女子中学生の体格に、綺麗とも可愛いとも言い切れない中性的なハーフ顔になっている。潰したはずの片目も再生され、南十星と同じ茶色の瞳に青白い《魔法回路EC-Circuit》を載せている。


 一号館の廊下に風が吹き荒れ、窓ガラスが引っ張られるように内側に割れる。同時に『南十星』が着るブカブカの学生服に霜が降りる。

 突き出された腕を目にし、南十星は割れた窓から飛び出した。直後、熱力学ジェットエンジンの推進力が、攻撃として放出される。あと少しで『爆風』と名が変わる突風が、廊下を駆けて軽い物を破壊した。


(《躯砲クホウ》? 見た目どころか《魔法》までコピー?)


 同じ効果の《魔法》を違う《魔法使いソーサラー》が使うことは珍しくもない。とはいえ、自傷を修復しながら白兵戦を行う、狂気の仕様を持つ者が他にいるとは考えにくい。


 『南十星』は、唯一無ニであろう南十星の《魔法》を使った。しかも《魔法使いの杖アビスツール》なしに。肉体の形状を変える程度ならまだしも、原理不明・予想外のこれには驚いた。出鱈目でたらめさは聞いていたが、実際に目にするとやはり違う。


(これが《ヘミテオス》って連中かよ)


 南十星が降り立ったのは裏庭に当たる場所だ。応接の横目に見るであろう、小規模な庭園として整備されている。枯池に敷き詰められた小石を空気を冷却液化・過熱膨張させて吹き飛ばし、南十星は高々と跳ぶ。


 追って『南十星』も屋外に飛び出してきた。《魔法回路EC-Circuit》のエネルギー循環に触れたのと、発生させた爆発的な推進力で、学生服の袖や裾は千切れ飛んでいる。引かれた拳は紫電をまとい、ギプスの残骸を焼け焦げさせていた。


 電撃で体表を焼かれながら、正拳は弧拳でいなす。続く蹴りは、熱力学推進の冷却に巻き込まれるのも構わず肘で受ける。そこで建物壁に接近したので、鉄筋と磁力で結びついて壁を足場にし、戦う平面方向をX-YからX-Zに変える。


(ここまではできる、か)


 『南十星』も壁に立って放つ一連のコンビネーションを受け流して、双手でてのひらを突き出し、推進力を腕から吐き出す。南十星自身を上空に打ち上げると同時、『南十星』を地面へ叩きつける。


(ここまでもできる、と)


 最上階の窓枠を掴んでベクトルを変え、南十星は屋上に降り立つ。ふちから離れると同時に、すさまじい勢いで『南十星』も追ってきた。地面に叩きつけたダメージはうかがえないのは、《魔法》によるものか《ヘミテオス》の特性によるものか。


「でもダメだね」


 『南十星』が突進してくる。普通の人間ならば反応できずに、伸ばされる手に宿る接触分子分解プロトコルに肉をえぐられる。

 対する南十星は引っかくように開いた手――そうしょうを左右振り下ろす。《魔法回路EC-Circuit》同士を衝突させて一瞬機能を干渉すれば、それでいい。軽々と前腕で防がれたが構わない。皮膚を削ぐ力も込めていない。

 意識をらせるためで、《魔法》を宿した次が本命だから。川掌――体を横に向けながら伸ばした掌底と爆風で無防備な腹を打つ。

 八極拳、もうこうざん。ただでさえ奥義かそれに匹敵する技術で、半端でも《魔法》を重ねれば真の意味で必殺技になる。『南十星』はきりみしながら南十星の脇をすっ飛び、突進の勢いそのままに大型室外機に激突した。


「あたしの戦術やりかた、簡単にマネできると思うな」


 『南十星』には、南十星のジャンル不問で色々取りこんだ自己流パッチワーク拳法とは違う、キチンとした格闘技術の修練が見える。

 ゆえに異形の《魔法》と噛み合っていない。付け焼刃では南十星のイカれ具合に追いついていない。


「んで? まだやんの?」


 己の攻撃で壊れた手を修復させながら南十星が振り返ると、『南十星』はなんとか室外機から小柄な体を引き剥がし、血を吐いていた。

 問うた戦意に応じるように、その体躯がまた《魔法回路EC-Circuit》に覆われる。『十路』ほどではないが身長が伸びて体が厚くなり、女性的な丸みを帯びて解除された。


「次はナージャ姉かい……」


 破れた着衣から病的なまでに白い肌が覗く。髪は腰まで真っ直ぐ伸び、白みがかった金に染まっている。

 次いでその全身が、白と黒の《魔法回路EC-Circuit》に覆われた。超音速行動を可能にする魔法 《加速ウスコレーニイェ》と《ダスペーヒ》が実行され、その輪郭をぼやかせた。


「あのさぁ?」


 南十星は浮遊する。瞬間的な加速力ではなく継続的な推進力を発生させて、フィギュアスケートのようにジグザグに滑空して、障害物の乱立に下がる。

 それだけで『ナージャ』は、普段開放されていない屋上の、屋外用空調設備や電気設備に激突する。無敵の防御は如何いかんなく発揮しているが、速度は生かせていない。

 本物のナージャならば、こんな無様をさらさない。時空間制御は本来こんなに扱いが難しいのかと、違う意味で感心する。


「あたし、ナージャ姉と何度も組み手してるって、調べてないわけ?」


 高圧受電設備キュービクルを盛大に変形させて、黒鎧が障害物の中から出てきた。そして一方的な展開に苛立ったのか、まずは南十星を捕まえないと話にならないと考えたか。『ナージャ』はレスリングタックルを敢行してきた。ベストな体勢になってくれた。

 南十星は覆い被さりながら相手の脇から手を入れ、両腕を背中でクラッチ、逆さリバース羽交い締めフルネルソンの形にめる。本来ならばここで耐え、相手を引っこ抜くようにして持ち上げるが、タックルの勢いに逆わずむしろ引っ張って下がり、屋上から飛び出すことで『ナージャ』を浮かせる。

 空中で相手の上下が反転すると自然、関節技が外れる。なので相手の胴に抱きつくように固定して、仮想のジェットエンジンノズルを上に向ける。


「二代目タイガーマスク、三沢光晴みつはる社長にささぐ――」


 プロレス技で、コーナーポスト上からや場外に飛び降りながらなど、より高低差のある場合を雪崩式・断崖式などと呼んで区別する。一メートル余りの落差でも、見た目が更に派手になり、威力が格段に変わるからだ。

 建物高さと、更に重力加速度と推進力がかけ合わさった落下速度で、効果は何十倍にもなるこの場合、果たしてなんと呼ぶべきか。


「タイガードライバー二〇〇一ィッッ!!」


 隕石落下式とでもなるのか。一号館正面玄関前のアスファルトを粉砕し、路盤の砕石と路床の土を盛大に噴出させた光景は、小規模ながらそのおもむきがあった。


「こんなマネ、本物相手にゃムリだけど、アンタならできるよ」


 下校途中の学生たちの少なくない目を集めているが、構わず南十星は立ち上がって『ナージャ』に吐き捨てる。

 相手を逆さに持ち上げて脳天から落とす。この手の技の元型が杭打ち機パイルドライバーと呼ばれる理由そのままに、黒鎧の人型が頭から胸元近くまで地面に埋まっている。傍目には間抜けでも、絶対防御がなければ首なし死体が生まれた恐るべき光景だった。


 そのままでは抜け出せないと、『ナージャ』は《ダスペーヒ》を解除して隙間を作り、一度も倒れることなく立ち上がった。


「これで従軍経験もない、ただの子供だなんて、恐れ入るわ……完全に殺しにかかってるじゃない」


 ナージャと同じソプラノボイスだが、口調が違う。南十星も本物相手の対応とは違う、子虎の凶暴な笑みを浮かべる。


「他の相手ならもちっと手加減するよ。でもアンタ相手にムヨーっしょ? 兄貴に化けてふざけたことしてくれた礼もあるし」


 最初からその気、殺せるのなら既に殺している。

 言外の殺意を正確に掴んだように、『ナージャ』が鼻を鳴らす。


『勝手に劣化モノマネされるとムカつきますね』


 直後、音程の狂った呟きよりも早く、跳び膝蹴りで吹っ飛んで一号館の壁に激突した。入れ替わるようにしてその場に残った人影が《魔法》を解除すると、カーディガンに膝丈プリーツスカートの、本物のナージャが現れる。


煙幕スモーク!」


 更には男の声と共に、白煙を噴く消火器が投げ込まれた。周囲は見る見るうちに白濁し、戦場と化した構内の一角を隠す。


「ちったぁ人の目気にしなさいよ……つか、とっとと呼びやがれ」

「ゴメン。《魔法使いの杖アビスツール》出してから、そのヒマなかった」


 消火剤を手で仰ぐ、装飾杖を突くコゼットと、セーラーワンピースを脱いで妖精めいた意匠の強化服を見せる野依崎が、白煙の中に入ってきた。

 全員が《魔法使いの杖アビスツール》を起動させた《魔法使いソーサラー》なのだから、視界の悪さなど関係ない。というか消火剤が目に入らないよう、まぶたを閉じて視界をみずから封じている。


「仮称『ハスミ・キヌガワ』。ここで自分たちと決着つけるでありますか?」


 血の人型を壁に残したが、ダメージを感じられない態度で再び対峙する『ナージャ』に、野依崎が疑問符つきで宣言する。

 するとまた全身を《魔法回路EC-Circuit》で覆い、服装はボロボロの男子学生服だが『羽須美』の姿が現れた。


「怖い怖い。あなどってたのは認めるわ。ちょっとしたお茶目で、まさかここまで反撃されると思ってなかったし。見逃してくれるなら、大人しく退かせてもらうわ」


 教室では見せなかった形に唇を歪めて見せると、空から轟音が近づいてくる。それに怪訝に思う間もなく、次いで暴風が降って白煙を吹き散らかす。急接近した物体が、見上げる一号館の陰からゆっくり姿を現して空を隠した。


「なにあれ……?」


 軍事学にも航空力学にも詳しくない南十星でも、下から見上げる機影が異様であるのは理解した。なんというか、SF映画やゲームに登場する架空の航空機を、無理矢理引っ張り出してきたような印象だった。


 なにせ『機首』と呼べる部位がふたつというか、三つある。とはいえ間隔がないものだから、双胴機や三胴機というカテゴリーに入れづらい。更には前翼カナードとは大きさが違う、主翼と呼べるものが前進翼と後進翼で四枚伸びている。

 無理矢理にでも説明するならば、『六芒星ヘキサグラムを一部千切って変形させた』とでも言おうか。既存の戦闘機には存在しない形状だった。


「「!」」


 誰もが頭上に注意を奪われていた最中、コゼットと野依崎が南の空を睨んで、装飾杖で地面を突き、片手を突き出す。彼女らちがなにを察したのか、すぐに南十星にもわかった。

 ロケット弾か誘導爆弾かミサイルかの区別はつかず、着弾地点のほぼ真上で空中静止ホバリングする謎の航空機が巻き添えを食う可能性もあった狂気加減だが、金属の塊が高速が突っ込んで来れば攻撃されたと嫌でも理解する。


 野依崎がレーザー光線を照射して誤爆させ、破片をコゼットが作った巨大な石腕が防ぐ。ナージャと南十星は飛びのくのではなく、それぞれの《魔法》をまとって突っ込み、コゼットではカバーしきれない破片を空中で叩き落し、部員だけでなく無関係の学生たちをも守る。

 そこで兵器や戦争に無縁な一般の学生たちは行動する。自身が危険のすぐ側にいると自覚した者は、少しでも遠ざかろうと逃げ惑う。アクション映画を見ているような非現実感と正常性バイアスに囚われた者は撮影を開始める。


 誰もが意識を『彼女』から逸らしたが、負傷で戦力にならないからと離れている十路だけが違った。

 彼の視線を辿たどり、南十星も意識を向け直すと、『羽須美』は《魔法》の身体能力で高々と跳び、頭上の航空機に飛び移ったところだった。


 覗き込む顔を望遠する。南十星の記憶にある本物の羽須美が見せなかった、見下す下卑げびた笑みで『羽須美』が、十路に向けて口を動かす。


「――――」


 普通の音量と語調では、ジェットエンジンの駆動音でかき消された。しかも口前に展開された《魔法回路EC-Circuit》で唇の動きも読めなければ、なんと言ったかわからなかった。


 そのまま『羽須美』は陰に消える。そして異形の航空機がゆったりと加速し、敷地上空から飛び去って行く。


退くなら余計なことせず、とっとと消えろよ……」


 《魔法使いの杖アビスツール》と接続しておらず、口の動きなど見えていないだろうが、『羽須美』の去り際の言葉は十路には伝わったらしい。


 ともあれ、遠ざかる機影を見送りながら、再び支援部員たちは集合する。


「逃がしていいの?」

「人ンの上で撃墜するわけにもいかないでしょーが」


 南十星の問いにコゼットが答えた時、空が閃光し、遅れて雷鳴が轟く。人工の落雷が学院の敷地から、南の空へ一直線に伸びた。飛行物体が住宅密集地帯から離れるのを待って実行したに違いあるまい、レーザーL誘起IプラズマPチャネルC雷霆らいてい》による砲撃だった。

 『十路』への対処は仮定を含めて指示されていたが、狙撃者のことまで知らされてもいなかった。一号館の足元からでは確認できない。


(そんなに顔合わせたくないのかね……)


 本当に会いたくないのは誰なのかハッキリしないが、マンションでも部室でもここ最近、顔を合わせていない。

 今しがた命のやり取りをしていたのだから、そんな場合ではないのは理解しているが、『彼女』の態度に南十星も苛立ってしまう。


(なーに兄貴に期待してんだか……)


 指向性エネルギー攻撃はなにかに命中した。遙か遠くの空で小爆発が発生し、火の玉が海に落下した。

 それを見ながら、南十星は半ば無意識に舌を打った。

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