050_2050 巨兵ⅩⅡ~「奇跡」は準備されている~
発射した固定アンカーを使って、再び
問題なのはこちらだと、脳内に送り込まれる
いつの間にかレーザー連射を止めていた。再びジョイスティックのボタンを押し込もうとしたが、考え直してそれも止めた。
(なぜ破壊できないでありますか……?)
戦略兵器の本命に、何発も命中させているはずだ。なのに手ごたえがない。
(ミス・ナージャのように、時空間を操作しているわけではないはずでありますが……)
無敵の防御を持つという、最悪の予想が脳裏によぎったが、即座に否定する。
常人には物理法則を越えているように思えても、《魔法》は物理法則に従うもの。しかし時空間制御による現象は、《
《
対して落下してくる戦略兵器は、明るい光を放っている。運動エネルギーが空気をプラズマ化する、ごく普通の現象が起こっている。
破壊可能だとしても、安全圏を突破されてしまった今、下手に爆散させることができない。大阪湾沿岸は守れても、他地域の被害までは守れない。それでは意味がないことは、彼女も理解している。
(残る手段は……チキンレースを行い、もっと低空で破壊するしかないでありますか)
危険が高い。ただでさえダメージを受ける飛行姿勢を取り、武装のほとんどが使えず、仕方ないとはいえ十路が一部フレームを破壊し、現在進行形で墜落し、無抵抗のまま無防備な姿をさらし続けているのに。
効果が発揮されたとしても、時間がかかるだろう。
(《トントンマクート》はまだ健在……)
歯噛みしながら脳内で
対処は彼女の手から離れているのだから。
(頼んだであります……!)
だから青年を、仲間たちを、いま一度強く信じる。
△▼△▼△▼△▼
可潜戦艦を撃破する策は、まだ準備中だった。
「はっ!」
大阪湾沿いに建つ石油コンビナートで、巨大な
今夜の非常事態は、神戸市だけのものではない。行政がいち早く事態の進行を掴んで、避難地域を拡大させている。そうでなくても戦闘海域に近いこの場所で、被害が出れば大災害に結びつくコンビナートでは、現場責任者による判断で人員の避難が行われていた。
それでも施設を徴収するのは楽ではなかったが、まだ手早く準備できたほうだろう。
「角度、どうしようもないですわね……」
脳内センサーで観測したコゼットは、斜めになった塔の根元で顔をしかめる。
支柱をいくつか切断し、狙いどおりの方向と切れ込みを入れて倒した煙突を砲身にしようというのだ。大砲と同じように計算すれば、超常の戦艦たちが戦っている海域までは、角度がきつくて届かないだろう。
しかも発射しようという砲弾は、改造した消火器で、直径がかなり違う。発射速度はなんとでもなるが、内部で
代わりの対策は、砲身を駆け上がるナージャが行っていた。必要分だけを残しておけば、あとは電力を使っても構わないと、《
《
ここは石油化学コンビナートなのだから、必要なものは全て現地調達することができた。防災設備は普通の工場以上に充実しているため、逆に初期消火にしか使えない消火器は少なかった、なんとか数は集められた。道路舗装に用いる、いわゆるアスファルト・コンクリートではないから、接着は一時的なものでしかない。
心配を抱えがらも作業を終えたナージャは、コゼットの前で《魔法》を解除して振り返る。
「あとはまぁ、部長さんとナトセさんのコンビネーションにかかってますね」
視線の先にいる南十星は、少し離れた広い場所で、合掌して体を覆う《
「部長さん、いいですか?」
「ぶっちゃけ、自信ねーですわ……ただ計算するだけでも、不確定要素多すぎですし」
移動途中で改造した消火器を地面に置き、コゼットは消極的な準備完了を告げる。
「ナトセさん、いいですか?」
「花火はいつでもおっけー。発射は当たって砕けるしかないってトコ」
膨張していた《
可燃性物質が大量にある場所なのだから、材料に不足はない。いつか急造したよりも、もっと本格的なものが作れてしまう。しかし暴発しようもなら、大災害になるため、手の中で作り上げた物質を、消火器の中にそっと入れる。
同時にコゼットが無線で、容器内部の極薄集積回路に込めた
組み込んだバッテリーが尽きるまで、この状態は自動で保持させる。安全装置としては、ひとまず問題ない。発射の衝撃に耐え、起爆装置として働いてくれるかは、試すわけにはいかない。
「ぶちょー。
「わたくしのセリフですわよ。
「わかんね」
「わたくしも、調べたことねーですわ……」
後は祈るしかないと南十星は語りながら、コゼットがレバーを切断したフタを締める。
砲弾の完成を見届けて、ナージャは《
「十路くん。援護、準備完了です。というか、早めにお願いします」
△▼△▼△▼△▼
「……了解。合図待て」
《バーゲスト》が倒れている地点まで戻った十路は、少しだけ迷ってから返事をした。
雲で目には当然、《トントンマクート》は
次に水中から出てきた時には、破壊しなくてはならない。
乗っている《
彼らは学生。これは部活動。そんな詭弁で
彼らは《
決意を新たにし、十路は無線越しに指示を出そうと、大きく息を吸う。
元の腕が千切れ飛び、代わりに生えてきて変化した左腕はそのままだ。日常生活に確実に不便になる不安もあるが。
使えるものは使う。無限に電力が使えるのであれば、いくら既存の常識を超える巨大な《
【トージ……なにかが高速で接近しています】
動けないなりに働こうとしているのか、イクセスが報告と同時にデータを送信してきた。雲の中ではほとんど見えず、立っている場所のせいか、十路のセンサーには反応が捉えられなかったが、《
やや離れた海域で哨戒飛行している、《ヘーゼルナッツ》の
「……なんだ?」
河原で行う水切りのように、なにかが海面を跳ねて紀伊水道に侵入してきた。映像越しでは正確にはわからないが、猛烈なスピードから考えると、一段で数キロのジャンプを行っている。しかしペースは見る間に落ちていることから、本土まで届かず水没するだろう。
別の
減速されてプラズマの輝きが消えると、粗い映像からでも正体がわかった。
となれば、先ほど盛大に海を跳ねていた物体は、撃墜された
脅威のひとつが排除され、戦力が増強された。いや、それ以上の好機と言っていい。
しかし彼は咄嗟に、少女の登場にやや複雑な感情を抱いてしまった。
「
私的な感情は押し込めて、十路は《魔法》の無線で呼びかける。
△▼△▼△▼△▼
「話しッ……! かけ、ないで……!」
時間がたてば落ち着くだろうが、今の樹里には返事すら精一杯だった。
体が勝手に歪んでいる。生命維持とは異なる《
《神経調節 意識障害 危険域と判断 lilith形式プログラム――実行》
《lilith形式プログラム――停止》
《神経調節 意識障害 危険域と判断 lilith形式プログラム――実行》
《lilith形式プログラム――停止》
気を抜けば途切れそうな意識を必死に繋ぎとめることで、暴走状態を押し留めている。日本近海でようやく追いついた
彼女自身で新たなピンチを作ってしまっていた。
精神的ショックや過度のストレスを感じると、自分の意識とは関係なく反応してしまう。失神など戦闘不能状態になる予兆を感知すると
これが十路が『キレる』と呼ぶ、暴走状態の正体だ。
今の事態は、生身で宇宙空間に
これまで暴走を起こした時は、一応は対人戦内に収まっていた。体が
しかし現状で意識を失ったら、果たしてどうなるのか。《
周囲の動体といえば戦艦二隻しかない空中で、どういう暴れ方をするのか、彼女自身も予測がつかない。
『丁度いい!』
そんな精神状態に構わず、十路は指示を出してくる。なにが丁度いいのかと、反発心が生まれたが、口に出す余裕はない。
彼が人殺しをせずに撃破するつもりなのは、今の彼女はもちろん、平時であってもそのセリフからでは察することなどできはしない。
『
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