理論尽くめで頭を下げて

 寝ている彼の前に立ち、深呼吸をし、健斗を軽く叩いて起こす。

「健斗……全て分かったよ」

「ひと……ね?」

 私は今から彼に真実を伝える。それは精神的な死の宣告をするということにもなる。

 それでも……私は言う。

「君は……間接的に両親を殺したんだね」

「……は?」

 彼が信じられないといった顔をした瞬間、偏食漠が現れた。

 まるでずっとそこにいたかのように登場したソレに一瞬だけ怯む。

 偏食漠は健斗の上で浮かびながら私の方を見る。……細部まで思い出させろというわけか。

 私は再度推理を確認しながら口を開く。

「まず……検索ソフトを隠蔽しながら使っていたのは君だ」

 これは先に立証済み、両親が死んだ後にパソコンを容易に触れたのは彼だけだ。

「そしてその検索ソフトの履歴にあったのは……犯罪予告サイトだ」

 私は彼に犯罪予告サイトの画像を見せる。

『・四月二十日に烏谷ハイランドで殺人をする。

 ・五月二日に皆坂デパートに放火をする

 ・六月七日に□l□lで通り魔をする

 ・六月十日にカララスーパーで万引きする

 ・七月三日にミナナキで大量殺人をする』

「この中の二つの事件に君の両親は巻き込まれた」

 同じサイトの同じページに書かれた犯罪予告で両親が殺される。偶然にしては出来過ぎだ。

 それに父親の部屋にあったチラシ、それは父親がそこへ行く数日前に発行されたものだった。

 つまり……父親以外の人がチラシを置いた事となる。

 その時母親と弟は死んでいた、パソコン同様チラシを置けたのは彼だろう。

 母親にも似たような事をしていたのだろう。母親が烏谷ハイランドに行った日は犯罪予告サイトのモノと一致している。

「チラシなどで犯罪予告された場所に誘導し、犯罪に巻き込ませた」

 彼にしてみれば『ダメで元々』だったのだろう。しかしそれは二度も成功してしまったのだ。

 全ては仮の証拠に過ぎず、実際の事件ならば推測の段階だろう。

 しかし……偏食漠は現れた。

「そういう経緯で彼は両親を間接的に殺した……そうだろう? 偏食漠」

 私の言葉を聞いた偏食漠は私に興味を無くしたように彼の方に鼻を伸ばす。

 その鼻は彼の頭に触れ……光を放った。

「……っ」

 光で眩んだ目がようやく慣れた時、偏食漠は消えていた。

「ひとね……思い出した……」

 健斗は消え入りそうな声でそう言った。目とその上に置かれた腕の隙間から涙が伝う。

 彼をこんな目にあわせたのは……私だ。

「元々は自分の記憶だけど記憶の整理が必要だろう……一度寝るといい」

 彼の頭を撫でながらそんな理屈だらけの台詞を吐く。

 こんな事しか言えないのか、私は。

「ごめん……健斗」

 頰を伝いかけた何かを拭き、私はそう呟いた。

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