第87話 VSゴーレム

「ユーリ、こっちに来るんだ。そうすればゴーレムは追ってこれない」


 え、そうなの?

 それならアルにーさまの言葉を信じて、ここから退却だね。


「ノアール、ゴーレムを壁の方まで誘導して!」

「みぎゃっ」


 亀裂の反対側まで誘導しておけば、ゴーレムの動きは遅いから、すぐに追ってこれないはず。


 予想通りゴーレムは急に方向転換できなくて、私たちは余裕で亀裂の向こうに逃げることができた。

 そこは大理石の採掘場で、ゆるやかな下り坂になっているみたいだった。


 枯れ井戸に下りたはずなのに更に下り坂? どうなってるんだろう。

 もしかして枯れ井戸があった場所って山の中腹で、だから底に下りたはずなのに亀裂の向こうに空が見えたのかも。


「アルにーさま!」


 両手を広げて待っていてくれたアルにーさまに思いっきり抱きつく。


「絶対来てくれると思ってました!」

「無事で良かった」


 頭を撫でてくれるアルにーさまを見上げて笑いかける。水色の優しい瞳を見て、凄くホッとした。


「まーくんたちも無事ですか?」

「逃げてきた子供たちなら、さっき保護したよ。ついでに襲ってきた兵士たちもカリンが茨の蔓で縛り上げてある」

「プルンは?」

「ちゃんとここまで道案内してくれた。枯れ井戸の方へ向かおうとしたら、フランクの元にパフボールが届いたから急いでこっちに向かったんだ。子供たちはカリンが枝のドームの中で保護しているから安心していいよ」


 カリンさんが言霊ことだまで作る枝のドームは、中に入ると防御しかできなくなるけど、どんな攻撃も無効になるという最終奥義だ。


「そうですか、良かった……」


 ちょっと落ち着いてから周りを見回すと、フランクさんの隣に見知らぬおじいさんがいる。神官の恰好をしているから……。あっ、あの人がロウ神官かなぁ。


 それよりゴーレムはどうなってるんだろう。


 亀裂のあった場所を見ると、そこは山の裾野すそので、ゴーレムが壁を叩いてる音がする。


 確かにあのゴーレムの大きさじゃ、壁が壊れない限りあそこから出てこれないよね。こっちから見ると大理石だけの壁に見えるけど、奥の方は魔鉱石が混ざってるから、さすがのゴーレムでも壊すのは無理じゃないかな。


 うん。これで安心だね。

 と、肩の力を抜いたんだけど――


「……おかしい。結界の中におれば、ゴーレムは動かぬはずじゃ」


 ロウ神官らしき人がそう言って眉間に皺を寄せた。


「どういうこった、爺さん。こっちに逃げてくれば安心なんじゃねぇのか」


 気安い口調のフランクさんに、ロウ神官は「はぁ」とわざとらしく大きなため息をついた。


「お前は相変わらず口が悪いの……。と、今はそんなことを言っておる場合ではないな。あのゴーレムは言い伝えによれば、この町を造ったと言われる魔法使いが護衛代わりに創造したものらしい。儂もどこにあるのかと散々探したが、まさかこんな所に隠されていたとは……」

「まさか爺さん、わざわざこんな辺鄙な町の神官をやってたのは、あのゴーレムを発掘するためだったんじゃねぇだろうな」

「いつも言っておったであろう、フランク。男というものはな、ロマンが必要なんじゃよ。ロマンが」


 ……うん。間違いなくロウ神官はフランクさんのお師匠さんだ。


 だって前にアマンダさんがどうして神官になったのかって聞いた時に、フランクさんが「いざってぇ時にパーッっと回復するのが格好良いんじゃねえか。男のロマンだよ、ロマン」って答えたのと、口癖が一緒だもん。


「その伝説によるとな、土の魔法使いがゴーレムを作ったはいいが、スライム一匹を相手にするのにも全力で戦ってしまってな。せっかく魔法使いが造った町を、端から壊してしまったそうなんじゃ。そしてしまいには、結界の中に封印されたと、そういう訳じゃな」

「……待てよ、爺さん。そりゃ、ちょっと変じゃないか? 封印されてんなら、そろそろ動かなくなっても良さそうだぜ」

「うむ。ゴーレムというのは敵を認識して動き出す性質を持つからの、おそらくそのダーク・パンサーに反応して目覚めたんじゃと思うが……。結界から離れておるのだし、まだ動いているのはおかしい。……これは大変じゃ。もしかして、結界がほころびておるのかもしれんぞ。しかし伝説の魔法使いがほどこした結界を壊すほどの衝撃など、加えられるものかのぅ」


 その言葉を聞いたフランクさんたちが一斉に私を見る。

 私を抱きしめたままのアルにーさまも、じっと私を見つめている。


「え……えへ」


 必殺・笑ってごまか……せないよね。


「えと、逃げ道を確保するために、亀裂をちょっと大きくしようかなーって思って、割と大きめの魔法を使っちゃいました」

「大きめの魔法……。それじゃ、もしかして……」


 アマンダさんが額に手を当てながら空を仰ぐ。


 それと同時に、ミシリ、と山肌から異音が響いた。

 ゆっくり振り返ると、私たちが抜け出してきた亀裂に大きなヒビが入っていた。


 ま、まさか……。


「アルにーさま! パーティーを組んでください!」


 アルにーさまの手を取って、それから急いでアマンダさんやフランクさんともパーティーを組む。


 ミシッ。

 ドォォォォン。


 ゴーレムの腕が、大理石の壁をぶち破る。

 ぬっと現れた腕が一度引っこみ、そのすぐ横からまた腕が突き出てくる。


「アルにーさまにプロテクト・シールド。アマンダさんにプロテクト・シールド。フランクさんに……」


 ゴーレムだから物理防御だけかければいいよね。

 みんなも重ねがけできるから自分にプロテクトをかけてる。


 って、あれ? アルにーさまの右手が光ってる!?

 ふわわっ! リヴァイアサンの魔法陣が光ってるよ!?


「アルにーさま、右手!」

「消えていたはずなのに」


 アルにーさまの右手の魔法陣が、今はうっすらと光っている。

 こ、これってもしかして――

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