第68話 力を示せ
「グウォォォォォ!!」
レヴィアタンの咆哮に、体が硬直してしまう。
ゴブリンキングの咆哮よりも強力だなんて、嘘でしょう!?
その咆哮を合図にしたかのように、地面がボコリと盛り上がる。
ボコリ、ボコリといくつも盛り上がった固まりはひび割れ、そこから魚のような人のような姿で、四本の腕を持つ魔物が現れた。
ちょっと待って。あれってマレンティじゃない? 魔法攻撃があんまり効かないから、レベル50くらいの時に戦って凄く苦労したような気がする。
動きは遅いから、よく見ていれば攻撃をよけることはできるけど……。
でも、少なくとも、初心者が簡単に倒せる魔物じゃない。しかも見る限り十体以上はいる。
こんなにたくさん、私たちだけで倒せるの!?
「なんだ、あれは」
やっと硬直が解けたフランクさんが、油断なく周囲を見回す。
「サハギン……にしちゃあ、腕が多いな。ってことは変異種か? 全く、どうなってんだ。最近、変異種にばっかり遭遇しやがる」
「サハギンっていうと、海の近くに現れる魔物だよね?」
私をかばうように立つアルにーさまが、剣を構える。
「ああ。湖の近くに現れるなんてこたぁ、聞いたことがねえ。しかもこいつら、魔法が効きにくいって噂だ」
「つまり、ユーリの魔法攻撃は通用しないってことか」
「……ハナッから、そんなの当てにしてねぇがな」
「確かにね」
「こんなの、さっさと倒しちゃいましょ」
「承知した」
フランクさんとアルにーさまの軽口に、アマンダさんとヴィルナさんも加わる。
じっとレヴィアタンを見据えているカリンさんもいるし、全員で力を合わせれば、なんとかなるよね!
「ぐるぅぅぅぅぅ」
ノアールが喉の奥で唸っている。
うん、そうだね。ノアールも、一緒にがんばろう!
私の心の中の声に応えたのか、ノアールも咆哮を上げた。
「ギャルルゥゥゥゥ」
次の瞬間。
のそり、のそりと、こっちに向かってきていたマレンティの動きがピタッと止まる。
「ほう。我のしもべを威圧したか! ただの獣ではないな。……なるほど。豹王か。しかし、なにゆえ豹王が混ざりものに従っておる?」
ノアールはサファイアのような瞳をレヴィアタンに向けると、フイッと顔をそらす。
そして動きを止めたマレンティに襲い掛かった。
「……見切った」
私の横に立っていたヴィルナさんが、細身の剣を両手に持ったその刹那――
マレンティに向かって走る。
は……速い!
ヴィルナさんが走り去った後には、十字の傷を負ったマレンティがいて……。
それが一斉にドウと倒れた。
もしかして、走りながら斬ってた!?
またたく間に最後のマレンティを斬ったヴィルナさんは、それぞれ片手ずつに持った剣をくるくるっと回して剣についた血を吹き飛ばす。
凄い……。あっという間に倒しちゃった。
ヴィルナさんって、こんなに強かったんだ……。
「さすが『黎明の探求者』の一員ね」
アマンダさんの賞賛に、ヴィルナさんは再び剣を構えて腰を落とした。
「まだこれからだ」
それを合図にしたかのように再びレヴィアタンが咆哮し、地面が盛り上がる。
「ノアール、いくぞ!」
ヴィルナさんの言葉が分かったのか、ノアールもレヴィアタンに負けないほどの咆哮を上げた。
すると、穴から這い出てこようとしていたマレンティたちが、一斉に動きを止める。
それを見たヴィルナさんが、マレンティたちに向かって走った。
「さすが豹王というところか。しもべ程度では相手にならぬな。……では、我が相手をするとしよう」
「――俺たちを忘れるんじゃねぇよ」
ノアールに向かっていこうとしたレヴィアタンの前に、フランクさんが立ちふさがる。
「……おもしろい。我が力を与えるに足うるや否や。そなたらもその力を見せてみよ!」
ゆっくりと頭をもたげたレヴィアタンが、その
巨大なエネルギーのようなものが、その口の中に集まってゆく。
「レヴィアタンの前から逃げよ! 水の槍が来るぞ!」
カリンさんの叫び声に、一斉に横へと逃げる。
私も逃げようと思ったけど、ひょいっとアルにーさまに抱き上げられる。
「あ、ありが――」
お礼を言おうと思った言葉は、その後に襲ってきた激流によって止まる。
それはまるで小さい龍の群れのようだった。
一つ一つが意思を持つかのようにうねり、こちらへと向かってくる。
「よけろっ!」
そう叫んだのはアルにーさまだったのか、フランクさんだったのか。
水流からかばうように私を抱きしめたアルにーさまの体が、衝撃に跳ねた。
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