第64話 秘密の入り口

 でも地底湖の周りにはヒカリゴケに覆われた壁が広がっているだけで、どこにも隠し部屋の入り口らしきものは見当たらない。


 カールさんから鍵をもらったんだから、どこかに鍵穴があるはずなんだけど、どこにあるんだろう?


「おい、カリン。お得意の鼻でどこに入口があるか分かんねぇのかよ」

「きゅ~」

「ふんっ。隠し部屋にスライムがいるわけでもないのに、分かるはずがなかろう」

「きゅっきゅ」

「せっかくの特技なんだから、スライム以外も嗅ぎ分けろよ」

「きゅうっ」

「なぜそんな無意味なことをせねばならぬ。話にならんな」


 フランクさんは相変わらずカリンさんがスライムの元に突進しないように首根っこをつかんでいて、二人はそのまま会話をしてるんだけど……。


 会話の合間にルアンも加わってて、なんだかカオスだ。


 アルにーさまとアマンダさんは壁を叩いたりしながら、空洞を探している。

 あ、そっか。壁の向こうが空洞なら、そこに部屋がある可能性が高いってことだもんね。頭いい!


 そしてヴィルナさんは……。

 ヴィ、ヴィルナさん!?


「何をやってるんですか?」


 なぜだか装備を脱ごうとしているヴィルナさんに、慌ててストップをかける。ここには私たちだけじゃなくて、フランクさんもアルにーさまもいるんですよ! 脱いじゃダメです!


「いや。もしかしたら湖の底に鍵穴があるのかと思って。潜って見てこようかと思った」

「だからっていきなり脱いじゃダメです」

「そうか?」

「それは最後の手段にして、とりあえず周りの壁を見てみましょう」


 慌ててヴィルナさんを引っ張って、淡く光る壁の前に連れて行く。

 でもどこにも扉らしきものはない。


「う~ん。見つかりませんね~」


 皆で隠し部屋の入り口を探すけど、どこにも見つからない。何か見つけるためのアイテムが必要なのかなぁ。でもそんなの……。


 あ……。ちょっと待って。……ある!

 そうだ。鍵があるじゃない!


「フランクさん! フランクさんが鍵を持ってるんでしたっけ?」

「おう。それがどうかしたか?」

「多分、それを使って隠し部屋を見つけるんだと思うんです」

「鍵穴もねぇのに、どうやって使うんだ?」

「えーっと、鍵を手に持って、開けゴマって言うとか」

「なんだそりゃ」


 呆れたように言われて、肩を落とす。

 もうっ。例えばの話ですってばー!


「それか、こう……鍵に魔力を通してみるとか」

「どうやって魔力を通す? 嬢ちゃんにはできんのか?」

「……できないです」


 更に肩を落とすと、フランクさんがちょっと焦ったように言った。


「いや、でもまあ、鍵をどうにかするんだろうってのは分かるぜ。ちょっとでも窪んだとこがありゃあ、鍵を差してみるんだが――おっと」


 フランクさんが壁に鍵を差すジェスチャーをすると、ノアールがピョンと私の腕から飛び出してフランクさんの足元にじゃれついた。


「にゃ~う」

「きゅうっ」


 するとフランクさんの頭の上が定位置だったルアンが、頭から肩へと下りてきて、そのまま太い腕を伝って手首へと移動した。

 さすがに筋肉自慢のフランクさんも、手首にルアンが乗ると鍵を持っている手が揺れてしまって……。


 古びた鍵の先が、トンと壁にぶつかる。

 するとそこから一斉に光が飛び出す。

 まるでつたが急成長するように、光が壁の上を走ってゆく。


 ううん、壁だけじゃない。天井もだ。


 最初は一本だけだった光の線が、二本、三本と分裂し、やがてまた合流する。


「わぁ……」


 伸びた光は、複雑に絡み合いながら、大きな一つの魔法陣となって洞窟内を覆う。

 まるでCGのような光景に、私だけじゃなくて皆が言葉を失っていた。


「こりゃあ凄ぇな……」

「ヒカリゴケの下に、魔法陣が隠されていたのね」

「なるほど。これは興味深い」


 しばらくしてからフランクさんが感嘆の声を上げると、アマンダさんとカリンさんも深く頷く。ヴィルナさんはあまりにも驚いたのか、耳と尻尾の毛が、けばけばに逆立っていた。


 そんな中、アルにーさまだけは冷静に洞窟内を観察していた。


「見つけた。ここが鍵穴だ」


 指を差したその場所は、確かに光の中心だった。


「フランク、鍵を」


 アルにーさまに促されて、フランクさんが鍵を鍵穴に差す。すると今度は、鍵穴から青い光が広がっていって、大きな扉のような形を浮かび上がらせた。


 次の瞬間。


 扉の形をした青い光がひときわ強く光って……そして消えた。

 そして現れたのは、現実の扉。


 これって……。

 か……隠し部屋の扉だー!

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