第48話 心配事

「父の副官であるクルムが鑑定眼と同じ効果を持つアーティファクトを持っていることは知っているかい?」

「ええ。有名だもの」


 ランスリーさんに聞かれたアマンダさんは、心配そうに私を見た。アルにーさまたちも、同じように心配してくれているような顔をしている。


 えーっと、クルムさんって、ガザドさんのお友達のドワーフさんだよね。

 も、もしかして、私のステータスを鑑定しちゃって驚いたとか。


 それってマズいんじゃないかな。だってHPとかMPはともかく、称号に『異世界よりのはぐれ人』ってついてるから、それを見たら私が異世界から来たってことがバレちゃうもん!


 ……あ、でも別に内緒にしてるわけじゃないんだった。言っても信じてもらえないだけで、アマンダさんには打ち明けてるのよね。


 じゃあ、特にステータスを見られても問題ないのかな?

 いや、ちょっと待って。やっぱり問題がある!


 『豹王の友』っていう称号で、ノアールが本来は魔物の王だったことがバレちゃうよ。

 でも魔の氾濫は終わったわけだし……。

 あれ? じゃあ何も問題はない?


「もしかして、ユーリちゃんを鑑定して、何かとんでもないことを発見したの?」

「……いいや、逆だよ」

「どういうこと?」

「何も鑑定できなかったらしい」

「えっ?」

「いや。そのことこそが問題だったんだ。公にはしていないけど、クルムの鑑定はかなり優秀でね。アーティファクトを研究して、より性能を高めているらしい。だから、そのクルムがユーリちゃんを鑑定できなかったということで、父は興味をもったみたいだ。その……父は優秀な人材を集めるのが好きだから」


 そう言って眉を下げるランスリーさんは、あの腹黒そうな父親のレーニエ伯爵とは全然似ていない。

 確かに同じ狸系の顔立ちだけど、凄くいい人そうだもん。


「現在ユーリは団長の保護下にあるんだけど、レーニエ伯爵はどうやってユーリを取りこむつもりだったのか、ランスリーは知っているかい?」


 顎に手を当てたアルにーさまに、ランスリーさんは少し考えてから答える。


「そうですね……。さすがにイゼル砦で団長の保護を受けている少女を無理やりさらうようなことはないと思います。からめ手でくるとして……多分、年の離れた僕の弟との婚約あたりでしょうか」

「――ユーリは貴族じゃないのに?」

「父はあまりそういったことは気にしませんから」


 ランスリーさんはチラリとアマンダさんを見る。

 ああ、まあ確かにレーニエ伯爵って貴族じゃないアマンダさんを後妻にしたいって言ってるくらいだもんね。


「ランスリーの心配は分かるけど、ユーリはもう僕の妹だから、レーニエ伯爵でも手が出せないと思うよ」

「オーウェン家の!?」

「ああ」


 頷いたアルにーさまは、私の左手を取ってランスリーさんに見せた。

 そこには青い魔石の入った指輪がはまっている。


「青を囲む羽……。オーウェン家の紋章ですか」

「正式な養子縁組の手続きは、王都に着いてからになるけれどね」


 私も!

 私もアルにーさまのこと、本当のお兄ちゃんみたいに思ってますよ!


「では、そのように父にも釘を刺しておきます。さすがにオーウェン家を敵には回したくないでしょうから」

「よろしく頼むね」

「はい」


 アルにーさまはランスリーさんの肩をポンと叩いた。

 良かったぁ。これでレーニエ伯爵のことはもう問題ないね。


「わざわざありがとう、ランスリー」

「いや。……ユーリちゃんはアマンダも可愛がっているみたいだから、気になって。でも、僕の取り越し苦労だったみたいだけど」


 アマンダさんにお礼を言われたランスリーさんは、また嬉しそうな顔をした。


 ……どう見てもこれは、アマンダさんのことが好きなんじゃないかなぁ。


 アマンダさんは……。う~ん。なんだか気がついていなさそう。

 まあ、アマンダさんはゲオルグさん一筋で、他に目がいかないのかもしれない。じゃあ、ゲオルグさんはどうなんだろう?


 そう思ってゲオルグさんを見るけど、あんまり表情を変えていなかった。

 う~ん。ゲオルグさんもアマンダさんのことが好きなのかと思ったけど、私の勘違いなのかなぁ。


「じゃあ僕はこれで。……アマンダは休暇の間どうするんだい?」

「ユーリちゃんと一緒に王都に行く予定よ」

「ああ。オーウェン家との養子縁組の件があるから……」

「ええ。いくら兄妹になるといっても、ユーリちゃんをアルゴだけに任しておけないわ。私にとっても妹みたいなものだもの」

「……ゲオルグも一緒に行くのかい?」

「いや。俺は久しぶりに故郷に帰る予定だ」

「そう……か」


 安心した様子のランスリーさんは、用事があるというゲオルグさんと一緒に部屋を出ていった。

 残された私とアルにーさまは、思わずアマンダさんを見つめてしまう。


 やっぱり、これってどう見ても、三角関係だよね……?

 でも、アマンダさん、分かってない気がするんだけども。


「二人とも私をじっと見て、どうしたの?」

「……いや。相変わらず男心の分からないやつだなと思って」

「何を言ってるの? もしゲオルグが私の気持ちに応えてくれたなら、すぐに分かるわよ」

「そうじゃないんだけどな……」


 肩をすくめるアルにーさまに私は思いっきり同意する。

 まさかまさか、こんなにゴージャス美人なアマンダさんが、ここまで恋愛に疎いとは思いませんでした!


「ユーリちゃんも何かあるの?」

「あ、いえ……。ランスリーさんと仲がいいんだな、って思って」

「まあ学園ではパートナーだったしね。でも学生の時に、こんなに気の強い女のお守りはもうこりごりだって何度も嘆かれたわ」


 えーっ。でもそれは照れ隠しとか、その時はそうだったけど今は好きになってるとか、そんな感じじゃないのかな。

 うーん。大人の恋愛事情って複雑なのかも。

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