第30話

私もその常宿を気に入っている。毎年投宿するので、多くのスタッフは私を覚えてくれているし、約10年暮らした庭のような場所にあり、勝手がよくわかる。宿泊費もあれくらいの部屋とサービスなら相場より安いと言える。

桂は、私が台湾へ行くよ、と伝えると、

「また、あのホテルに泊まる?」

と必ず訊いた。泊まるよ、と答えると、

「桂も絶対行く!」

とはしゃいだ。


6月30日はよく晴れた。早朝からぐんぐん気温が上がる。

正午前、ホテルを出て、桂の(かつて蘭も通った)小学校へ急いだ。人口の約三分の一が集中する首都台北。その学校も全校生徒3千人を超すマンモス校である。正門のほかに4つの門があり、自宅に最寄りの場所で保護者と児童は待ち合わせる。

桂と約束した五番門には、すでに多くの保護者たちが集まっていた。その光景は以前のまま。バイクで待っている人もいるし、話し込んでいるおばあちゃんたちもいる。台湾では夫婦共働きが普通なので、祖父母の迎えは多い。

あまり待たないうちに、桂は2人の女の子と出て来た。クラスメイトらしい。

「これがママよ。」

と紹介した。桂のお母さんは日本にいると、担任の先生も友達もしっている。

私は桂と仲の良い2人に丁寧に挨拶して、持っていたデジカメで彼女たちを写真に収めてから、娘と手をつないでホテルに向かった。


部屋は3年連続6階だった。朝食が提供される小さな食堂がある。5階以下は、オフィスやマンションになっていた。

桂はスキップしながら609号室へ先に行って、鍵を開けた。そして、前年と部屋の内装や家具の配置が異なるのに瞬時に気づいた。記憶力がよかった。

シングルとはいっても、提供されるのはキングサイズのベッドが置かれた

十分2人が泊まれる広い部屋だった。折りたたみ式のエキストラベッドも備えられていた。アメニテイグッズやタオル類も2人分用意されてあり、都合がいい。


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