第25話
五十歩百歩に一喜一憂していたんだなあ〜 空しい。
その上、4月下旬、カウンター担当が主だったものの、そちらが暇な時は厨房に助っ人として入り、結構な力仕事もしていたら、右手親指辺りが痛み始めた。腱鞘炎だった。よくあることらしく、社員のマネージャーは、慣れた手つきで、ビニール袋と氷で〝冷却具〟を作ってくれた。自分でもテーピングしたりして、勤務を続けた。使うと使った分だけ痛みがひどくなったが、人手不足ゆえ、また収入減は困るので、結局3週間くらいは我慢して働いた。休暇願を表明できたのは、5月半ば、店長もナンバー2のマネージャーも揃って転勤が決まり、それが良いきっかけとなった。店長から新店長に引き継いでもらうことになった。
整形外科を受診すると、「骨に異常はないが、重症」と言われた。
ようやく時間が取れて、診てもらった頃には、腱鞘炎から範囲は広がり、別の病名になっていた。右手首、肘、肩まで、要するに右腕一本が全部患部だった。
ファストフード店の業務を止めたにもかかわらず、蓄積していたらしい痛みがどんどん現れて、腕を動かさずとも、外用薬を使っても、寝ても冷めてもズキンズキン…… あまりの激痛に眠れず、そういう時は病院から出された鎮痛剤を胃薬とともに飲んだ。
家事は母がしてくれるので、大いに助かった。でなければ、包丁で食材を切ることも、具材を混ぜることも、お皿を洗うこともみな激しく痛み、無理だった。
そんな中、唯一、二胡を弾く力だけは温存しなければならなかった。お弟子さんが数名おり、お稽古にでなければいけなかったし、10年間私なりに研鑽を積んで来た、ひとつの技能を放り出すことになってしまう。
幸い、二胡は右手より左手の役割の方が複雑なため、短時間なら、その演奏に耐え得た。
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