第110話
月曜日に備えて、リフレックス錠は飲まず、以前決められた薬の組み合わせで就寝した。
隣りに寝るCOCO(ミニチュアダックスフンド)は、めずらしく夜中抱っこをせがまずいたが、2時すぎ私はトイレに起きた。よくあることだ。
この夜中のトイレと、朝の調子には因果関係を感じられない。
まだ、朝方寒くて、今朝も右手をやや右斜め上に伸ばし、石油ストーブを点火した。重症のドライ・アイの私は、ファンヒーターより石油ストーブが目に優しくて好きである。窓外の色から推し測って、5時頃だったろうか。母が間もなく起きてきた印象があるので、だいたい言い得ているだろう。
母は私に気を遣って、小さな声でテレビを見たり、照明を落としてくれるが、それは気にならないから大丈夫だ、と言う。
そして、2時のトイレの時と身体の様子が天と地ほどの隔たりがあることに気づく。身体は鉛をまとい、頭も厚い膜に覆われ、肺に硬い塊を感じ、苦しい。そして、交わした会話や、耳に入った声や音や出来事はすぐ遠くに薄れ、身を起こせた後、きっかけがあれば微かに思い出し、なければ永遠に思い出さないままになる。
今日午前中のうちに、来月から職場になるKアフタースクールに顔を出す予定があるというのに、背中から床に根を張ったみたいに宇宙の引力に素直に引っ張られて、びくともしない。幾度も大きい息を吸い込んでは吐く。そうした方が楽になる錯覚がある。
重い自分に抗い続けて、ついに成功したのが、絶望的な10時すぎ。
座って、頭がはっきりし、全身のだるさがマシになるのを待って10:30。
着替えたり、シャンプーやメイク、食事をしていたら時間がない。午後1時にはRアフタースクールに入っていなければならない。
どうしようもなく、Kアフタースクールに今日の顔合わせは明日に順延を
乞う電話を入れる。
運が悪いことに、今年度で退職するというA先生ではなく、Iと名乗る指導員で、また1から現状を説明し、こんな具合に午前中は体調がすぐれない、明日には伺えると思う、と恐縮しきりだった。
トドメは、数分後の人事課足立課長からの電話だ。足立課長は穏やかに、丁寧に、様子を気遣ってくれた。私は、〝一過性のもので、2週間に一度通院しており、この状態が長く尾を引くことはない〟と苦しい返事を返した。
とにかく、足立課長は、そんなにひどいならKアフタースクールに口添えしておく、と言い、電話を切った。
厳密に言うと、トドメは、私の怪しげな言動に不安を覚え、Kアフタースクールが人事課に苦情を申し立てたことだった。
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