第107話
政治を取り巻く環境は、台湾と日本では少し異なる。
テレビの討論番組では辛辣な意見が飛び交ったり、ニュース番組や新聞社によって、どの政党寄りか人々は知っている。
しかし、台湾では原則的に政治の話題は避けた方が無難だ。それは当初、私もガイド本で知識は得ていたが、本当に後に納得したものだ。
最も激しいのがタクシーの運転手。台湾、と言えば黄色いタクシーが目に浮かぶ人がいるだろう。実に懐かしい。が、彼らはもろに自分の車を支持する政党の旗やグッズでデコったり、大胆な発言をしたりと過激だ。それゆえにか、タクシー運チャン同士が殴り合いのケンカをしたりするのはさほど稀有なことではない。
タクシー運転手ならあまり接触は無いな、と安心する勿れ。
まず、バスで隣りに乗り合わせた人と天気の話や物価の話題で論争するのはいいが、支持政党云々に言及するのは御法度だ。友人、同僚などでも然りだし、家族はおろか夫婦間でも腹の内を明かさないケースはある。上海から総統選挙に投票するために帰国した義妹夫婦もそうだったし、私もそれに倣って、ジャックが尋ねてきてもなかなか答えず煙に巻いたりしていた。台湾にいると、自然とそういうふうになったものだ。
台湾の人は中国を「大陸」と呼ぶ。ご存知のように、台湾は常に「大陸」の顔色を伺って挙動を決定してきた。
五輪などの国際試合では「Taiwan」と名乗れず、「Chinese Taipei」としてはじめて参加権を得る。
私自身もちょっと肩身の狭いような、寂しい経験がある。日本で「乾さんが台湾に行っていた」という話が、
「えーっと、どこやったっけ、タイに行ってたんやっけ?」
とか、
「香港に住んでたんでしょ?」
とか、
「留学してたとこって韓国やったっけ?」
などと意外なストーリーが出来上がりそうになっている。タイと台湾がごちゃ混ぜになるのは音の面からすぐ理解できる。それ以外は、おそらく、もう日本の西側の近隣諸国が一緒くたになっているとしか思えなかった。
悲しいかな、台湾は国際的に独立国として認められていない。でも、土地があり、命が息づき、歴史も文化もあり、アイデンティティーを持ち、そこを祖国、故郷と愛する人がおり、自分が台湾人であることを誇りに思う人がいる。そして、私のように、そんな台湾の風土や伝統や気質を愛し、それらの魅力に強く惹かれる者たちも、きっと少なからずいるのだ。
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