第86話
精神的に益々参ってきた。母も、辞めたら? と勧める始末だった。
そして、「退職届」ではなく「退職願」を1月11日成人の日、私はシフトに入っていなかったが、店長は休みだと知っていたので、バックヤードの彼のデスクの上に置きに行った。ひとまわり大きい茶封筒に入れ、同僚たちには中味がわからないようにして。直接辞意を伝えることも、退職願を渡すのも恐ろしくて、到底できないと思ったからだ。
12日、私は定期的に回って来る朝の掃除当番で30分早く9時に出勤した。もちろん足取りは重く、気分も下がるところまで下がっていた。
案の定、店長は1番に来ていて、レジ場にあるパソコンで何やら作業していた。長身の彼は、かなり背中を曲げないとうまく画面が見えないため、時には膝を地面について見ていた。
「おはようございます。」
勇気を出して挨拶し、パソコンの前をモップを持ったまま速足で通り過ぎると、
「乾さん。」
と呼び止められた。‘来たっ‼︎’ 硬直した。
私はバックヤードに呼ばれた。結論から言って、退職願いは受理された。
しかし、退職願をデスクの上に提出したことに、
「強い怒りを感じます。」
と責められた。店長の考えを聞くと、納得できた。申し訳なかった、失礼なやり方だった、と反省した。これで決定的に嫌われたな、と覚悟した。憧れの本屋にも、このバックヤードにも縁がなかったのだと、わりと冷静に空を仰いだ。
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