第三十八話 艦長、最終決戦です。

「くっ、あの三人はなにしてるんだよ、ブラム卿がやられて、ウルカとアルゴ卿は追ってきて、ああもう!!」


 小型のステルス船を駆り、目的の地へと進むディオス。


 しかし、進むにつれて聞こえてくるのは、劣勢に傾く戦場の様子であった。


「いい加減諦めなさいよ! もうアンタの負けよ!」

「くっ、お前は黙ってろ!!」


 椅子に縛り付けているカグヤに対し、溜まっていくイライラを平手で晴らす。


 そんなことをしても状況が変わらないことはわかっている。今大事なことは、いち早くExGを手にすることである。


 あれさえあれば……。この最悪の状況を根底からくつがえす力を、ディオスは最後まで諦めずに求める。


「この強化アモールの認証をクリアできるのは、ごく一部の人間のみ……大丈夫だ、突破できるはずがない」

「……どうだか」

「何か言ったか?」

「なにも言ってないわよ」


 カグヤとしてはとことん反抗してもよかったのだが、ここで反抗したところで、自分が殴られるだけだと考え、今度は積極的に話を流していく事にした。


 最初の隔壁が開き、船はゆっくりと巨大隕石に偽装された封印の地へと入り込み、着艦させる。


 空気はあるが念のため宇宙服を着せられ、そのままカグヤはディオスに連れられるまま、薄暗い道を進んでいく。


「これは……扉?」

「ExG封印の扉だ」


 EG用の巨大な扉、古くから存在する扉ではあるが、一切の錆びもなく、何者も通そうとはしない強固さが伝わってくる。


「さあ、カグヤ姫、そこへ手を触れてください。あなたの手で封印を解き、私へ王の力をお授けください……さすればローメニア政権は終わり、私の世界を作りますからぁ、フフッ、アーッハッハ!」

「独裁者はいずれ革命によって死ぬわよ」

「フン、この先にあるのは神の力だ、革命だろうがなんだろうが、神は死ぬことはない」

「神? 敵として現れたら大体倒せるような名前負けの種族じゃない。チェーンソーでバラバラになる神だっているのよ? 本当に強いのなんて一握り、アンタみたいな小者は──!」


 そこまで言いかけたカグヤの横を、閃光が走る。


「うるさいなぁ、君は! 早く開けろって言ってるだろ!? それとも、当てなきゃわからないかなぁ!」

「女相手に銃を向けて、そういうのが小者だって言って──ぐッ!」


 エーテルの光が彼女の左腕を貫き、思わず苦痛の声を出す。


 しかし、腹の立ったディオスは、その撃ち抜いた左腕を強引に引っ張ると、そのまま門に彼女の手を押し当てる。


「最初から素直にしていれば痛い目を見なくてもよかったのに、バカな姫だねぇ! ま、これで目的は達成された、扉は開き、私は神になるんだ」


 カグヤの手から伸びるエーテルの光が、扉に魔方陣のような模様を描き、徐々に辺りを青い光が照らしてゆく。


 ──そして。


「開っ門っっ!! きた、きたきたきた、キタァァァーッ!! これが、これがこれが、ExG!」


 白い、真っ白な機体。

 神の力に相応しいほど、その白さは神々しさを見るものに感じさせ、停止してるにも関わらず、その力をディオスは宇宙服越しの肌でヒシヒシと感じていた。


「イクスアレイ……これがコイツの名前か」


 石碑に書かれた文字を読むと、その機体の名を口にする。


「はぁっ……はぁっ……いい加減離したら? もう私には用はないんでしょ、とっとと殺しなさいよ」


 撃たれた左腕を押さえながら、痛みを耐えながらもディオスに強気な態度で発言するが、彼は一向に彼女を離さず、殺しもしなかった。


「いや、殺さないさ、君には当初のローメニア王家の筋書き通り、私の子を“いやと言うほど”作ってもらわなければならないからな」

「くっ……どこまでも腐った奴」

「フン! なんとでも言うがいいさ、力は手にした、もう何も怖くない、恐れる必要なんてないんだからなぁーっ!! 君の仲間が助けに来てくれるかもしれないが、全部、全て、まとめてこのイクスアレイで倒してあげるよ!」

「──やれるもんなら……」


 突然どこからか聞こえてくる声。

 ディオスは驚いた様子で辺りを見回すが、当然その近くに人の姿はない。


 ──人の姿“は”


「やってみやがれぇぇぇーっ!!」

「飛鳥ッ!」

「ななな、何ぃーっ!? EGだと! バカな、外には強化型アモールが……ま、まさか!」


 封印の地へ足を踏み入れる飛鳥のアマツ。


 リーヴェスは全壊し、頭部、左腕、両翼、右足と、各部が破壊されていた。

 その機体の傷跡は、まさしく激戦を潜り抜けてきた証。


「最終決戦、ボロボロの機体……へっ、やっぱり俺が主人公なんだよぉぉぉーっ!!」

「こっちにくる!? くっ、止まれ、止まれぇぇぇーっ!!」


 カグヤを突き飛ばし、手に持つハンドガンでアマツに向かって弾を撃つが、そんなものが巨大なEGを止められるわけもなく、アマツは二人のいる場所へと勢いよく突っ込んでいった。


「ぐおわぁぁっ!?」

「カグヤッ!!」


 二人の間に割って入るように突貫したアマツから飛び出し、飛鳥は突き飛ばされたカグヤの手を掴み、自身へと引き寄せる。


「飛鳥……」

「腕、大丈夫か」

「うん、もう大丈夫」


 飛鳥に抱きつくカグヤは、ただ彼がここに来てくれたことだけで元気が出て、腕の痛みも先程より痛く感じなくなっていた。


「ま、まだだ、所詮はガキ一人が現れただけ……こんな大破寸前の機体ではなにも──なっ、ななな、貴様ッ何を!?」


 アマツの影から身を出して、二人の様子を目の当たりにしたディオスは、彼らの行動に対し思わず叫んだ。


 あろうことか自分の乗るはずだったイクスアレイに、二人は今まさに乗り込み、ハッチを閉めたのだ。


「コイツは頂いてくぜ、ディオス!」

「ふざけるな!! なにが主人公だ! 私の乗る機体を奪う奴が、主人公を名乗るなど!」

「ハッ、何言ってやがる、機体を勝手に奪って使うなんてのはな、主人公として当たり前なんだよ! むしろ、そうでもしなきゃロボット物主人公とは言えないと言っても過言じゃねえ!!」

「最初が正規兵のアンタがそれを言っても、説得力ないっての……」

「う、うるせぇ! とにかくこの機体は俺が使う! 起動しろ、イクスアレイ!!」


 エーテルの光と同じ碧の光を目に宿し、飛鳥の手によりイクスアレイはゆっくりと動き出す。


「くそっ、私の王の力がぁぁぁーっ!!」

「何が王の力だ! お前を確保して、この戦いも終わりだッ!!」

「くっ、神の力を前にして、その力に捕まるなど、こんな終わりかたは認めない、認めな──イヤだ、やめろぉぉぉーっ!!」


 その悲痛な叫びが彼の願いを叶えたのか、新たな機影がその場に現れる。


 それは飛鳥の援軍ではなく、この状況であってもディオスを味方するたった一人の人物であった。


「ディオス様から離れろぉぉぉーっ!!」

「チッ、新手か!」

「その声、カイセルか!」

「コイツは私が抑えます、その間にディオス様はお逃げください!!」


 まだ起動し始めて動きの鈍いイクスアレイに飛びかかると、そのまま向きを反転し、自身と共にディオスのいるその場から外へと飛鳥達を押し出した。


「チッ、大した忠誠心ね!」

「忠誠心? 違うな、これは愛だ! 愛の力だぁぁぁーっ!!」

「お前、ホモかよ!!」

「ああ、そうだ! 私は男が好きだ、ディオス様が大好きだ!! 人を愛することの何が悪いか!? 来い、ティーラルキアス!!」


 カイセルの後方から姿を現した巨大な影は、そのまま彼の乗るEGと結合し、再び巨大なEGとなり二人の前に立ちはだかる。


「新型機に乗ったらカグヤがいて、相手はホモの巨大EG……これが主人公としての俺の宿命ってやつか?」

「馬鹿馬鹿しい宿命だけど、それなら勝てるわね」

「ヘッ、勘違いするなよカグヤ、俺は誰が相手でも負けねぇよ……ところで」


 カグヤを前に格好よくキメる飛鳥は、一つの疑問をカグヤに投げ掛けた。


「──コイツ、武器は?」

「……え?」


 封印を解かれたイクスアレイの全身をくまなく探すも、武器らしい武器も、武器らしくない武器も搭載されておらず、さすがの飛鳥もコレでどうやって戦えばいいのかと戸惑っていた。


「まさか武神の如く素手で戦うから、神の機体とか呼ばれてた訳じゃねぇだろうな……」

「そんなわけないじやない……多分」

「多分ってなんだよ! あーもう、少しはその辺の情報聞き出しとけよ!」

「うっさいわね! こっちだって撃たれたり──って、前!!」


 ティーラルキアスは装甲を開き隠された巨大な砲口をイクスアレイへと向け、光を放っていた。


「チッ、何が神の機体だよ、だったらそれっぽい武器と盾ぐらい持たせとけよ!!」


 飛鳥の文句もむなしく、強力なエーテル砲はイクスアレイに直撃し、大きな爆発を巻き起こした。


「フン、避けられなかったか……神の機体も予想以上に呆気ないもの……!?」


 爆煙の中から赤い閃光がティーラルキアスの機体を掠める。


 その閃光の勢いに吹き飛ばされた煙の中からは、無傷のイクスアレイが、銃と盾を持ってティーラルキアスを狙っていた。


「バカな、武器も盾も無かったはず……まあいい、先程のエーテルライフル、威力を算出したが、このティーラルキアスの進化したエーテルフィールドの前には効果は──」


 再び赤いエーテルの光がティーラルキアスに放たれる。


 絶対の自信を持つカイセルはその場から動かず、飛鳥にこの機体の力を見せつけようと防御姿勢を取る。


 ズドン!!


 しかし、カイセルの予想は大きく外れ、イクスアレイの放った弾丸は、ティーラルキアスの一部を容易く貫通していった。


「バカな、威力が上がっているだと!?」

「なに驚いてんだよ──っていうのは野暮か、俺も驚いてるし……」

「くっ、貴様何をした!」

「俺はなにもしてねぇよ、やったのは全部コイツだ」

「ExGの力だと言うのか!?」

「ああ、そうだ」

「ッ!! その力は本来ディオス様の物……それを貴様は!!」


 両サイドから展開する巨大な鋏でイクスアレイを捕縛すると、ゼロ距離で砲口を飛鳥へと向ける。


「この距離ならシールドは使えないな! 落ちろぉぉぉーっ!!」


発射と同時に拘束を解き、イクスアレイは光の中へと消えていく。


「フッ、いくら神の機体と言えど、この至近距離からのエーテル砲ではひとたまりも……なッ!?」

「効かねぇんだよ!!」


 煙が晴れて、そこから現れたのは、やはり無傷のイクスアレイであった。


「クッ、だが、近距離線ならば、近接武器のない貴様よりは──!」

「こいつはテメェの想像を凌駕する! きやがれ、対艦刀イクスブレイド!!」


 手に持つシールドとライフルを投げ捨てると、二つはエーテルの光となって消え、なにもない空間にかざした手には、巨大な太刀が握られていた。


「バカな! 武器をエーテルから作り出しただと!?」

「武器だけじゃねぇ、機体の装甲も出力も全て、コイツの作るイクスエーテルがある限り、俺の“想像を創造”することができる!!」


 ティーラルキアスのクローを切り捨てると、剣を捨て、小型ライフルを両手に作り出し、追い撃ちをかける。


 通常なら小口径のエーテル弾など、フィールドで無効化できるはずだが、その銃は飛鳥が想像し創造した銃。


 全ての弾丸がフィールドを突き抜け、機体を蜂の巣にする。


「トドメだ! イクスリーヴェス!!」


 ティーラルキアスの周囲から産み出される飛鳥の新たな翼達が、合体した巨大オプションを細切れに引き裂き、カイセルのEGを引きずり出す。


「ひぃぃっ!」

「……終わったわね」

「ああ、これで終わりだ……」


 ──と、思ったか?


「なんだ!?」


 最後に立ちはだかる巨大な敵を打ち倒そうとしたところで、飛鳥は突然聞こえてくる声の主を探すため、周囲を見渡す。


 すると、先程までこのイクスアレイが封印されていた巨大隕石から、一つの光が接近していた。


「黒い……EG?」

「やあ、またあったねカグヤぁっ!!」

「ディオス!? なによその機体は!」

「君たちが戦っている間、その力を手にすることができず、悔しくて悔しくて、イクスアレイの石碑をぼーっと眺めていたらさぁ、そこになんて書いていたと思う……? 機体番号02、イクスアレイ──つまり、ExGは二機あったんだよ! 君のイクスアレイと、このイクスディスの二機がね!!」

「二号機奪うのもお約束ってか? まったく」


 自分の主人公としての宿命を皮肉りながら、迫るイクスディスへとライフルを構える。


「エネルギー最大出力のイクスライフルは、バスター砲と同等の力を持つ……くらえっ、イクスバスタァァァーッ!!」


 をしたライフルは、銃口とは不釣り合いの巨大な柱を作り出し、宇宙を駆ける。


 しかし、その光は爆発も衝撃も起こすことなく、イクスディスに触れた瞬間に消滅した。


「なっ!?」

「イクスアレイが万物を作り出す創造神ならば、このイクスディスは破壊神……万物を全て無に帰す消滅の力だ!!」

「へっ、ラスボスにはおあつらえ向けの機体だな。そっちに乗らなくて心底ホッとするぜ」

「抜かせ!!」

「来るわよ!」

「……一先ず下がる」


 後ろに乗せたカグヤを見て、飛鳥は転移機能を創造し、イクスディスから遠く離れた宙域に転移する。


「ここなら大丈夫か……」

「アイツから逃げてどうするのよ」

「怪我したお前乗せたままアレと戦うなんて、危なっかしくて出来るかよ。とりあえずお前はエーテリオンに転送させる……いいな」

「……わかったわ」


 自分がここにいても役に立つことはない、それをすぐに理解したカグヤはそう答えた。


「それじゃあ……」

「待った。開けなさい、飛鳥」


 コンコンと、ヘルメットの顔ガラスを叩くカグヤ。


 飛鳥はそれに対し、意味も分からず言う通りに開ける。それを確認し、カグヤも同じく顔を出す。


「カグヤ、なにを?」

「助けてくれたお礼よ……私のこと好きなんでしょ、だから──」


 目を閉じて顔を近づけるカグヤ。飛鳥は突然の展開に、高鳴る鼓動を必死に抑えながら、マナーと思い目を閉じた。


 コツン


「……あ」


 しかし二人の至福の時は、互いのヘルメットのフチによって、寸前のところで阻まれた。


「残念、これじゃあできな──」


 続きはお預けか、と残念がる飛鳥だが、カグヤはすぐにヘルメットを脱ぎ、飛鳥の顔を両手で寄せて、無理矢理にでも口づけをする。


「……ヘルメットが邪魔でキスができないなら、脱いでやればいいのよ。私達には時間も余裕もまだあるんだから、余計な事は考えなくてもいいのよ」

「ああ、そうだな……それじゃ」

「わかってる。負けんじゃないわよ、飛鳥」

「当たり前だろ、俺は主人公だぜ?」

「知ってる。少なくとも私を二度も救ってくれた主人公ヒーローよ、アンタは…………ありがと」


 光となって消えていくカグヤは、久々に笑顔を浮かべ、飛鳥に感謝の言葉を伝え、コックピットから姿を消した。


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