第三十四話 艦長、竹取作戦始動です。
……数十分前
「それでだ……今回の作戦、作戦名をどうするか意見を聞きたい」
「作戦名? いままでなかったのに必要か、そんなの」
「何言ってんだ大輝、作戦名は必要だろう。珍しく同じ意見だぜ、委員長」
グッと親指を立てて好感を表す飛鳥に対し、相馬はどこか照れくさそうな顔でそっぽを向いた。
「同じと言われても喜べんな……それで私の意見だが、ラグナロック作戦というのはどうだろうか?」
「神々の黄昏……流石相馬さん、いい名前です! では、今回の作戦は──」
「いやいや、作戦名と作戦内容が全然関係ないだろ!」
教室に戻ってからどこか今まで以上に相馬に肯定的な貴理子を、大輝は急いで止める。
「それは……そうだが、では貴様に何かいい案があるというのか?」
「それは……」
「はーい、いい案がありまーす」
日頃から極めつけの面倒臭がりで有名な命が、その時珍しく案を出そうとしていた。
その予想外の光景に、辺りは驚いたように黙り、彼女の発言を恐る恐る待った。
「カグヤで姫……カグヤ姫ってことで、安直に竹取作戦とかどうでしょう?」
「竹取作戦、か……まぁ、いいんじゃねぇか?」
「でもその話、月の故郷に行くカグヤ姫を連れ戻そうとしたけど、結局勝てなかった話じゃなかったっけ……?」
「何いってんだよ光、アイツにとっての帰るべき場所はここだろ? だから、俺達は絶対に勝てるってことだ」
「……ま、飛鳥さんならそう考えますよね」
諦めのつかない命は、作戦の失敗を祈ってその作戦名を提案したが、飛鳥は別の解釈でそれを納得すると、周りにその作戦名の良さを広めていった。
……
「よし……では、これより竹取作戦を開始する。これが我々にとって最後の戦いになるよう、全力を尽くし、各々の作戦を完遂しろ!」
「Aエーテリオン、ワープゲート通過開始!」
「……で、艦長代理としてブリッジにいるのはわかりますが、なんで椅子に座らないんですか?」
ブリッジの中央に存在するリッチな艦長席……その隣に相馬は立ちながら周りに指示を出していた。
「……この席は私の物ではない、艦長である月都カグヤの物だ。たとえ代理の身であったとしても、私がここに座る権利などない」
「ま、責任を感じるのはわかりますが……ではしっかり掴まってて下さい。機体の中よりも揺れますから」
「問題ない」
「ワープ完了、ローメニア星を確認!」
「へー、地球とあんまり変わんねぇんだな……あ、主砲副砲、その他諸々準備完了だぜ!」
「わかった……飛鳥」
アマツへと回線を繋ぎ、相馬は出撃前に彼の名を呼んだ。
『な、なんだよ、いきなり変な呼び方して……男のデレには興味ねぇぞ』
「黙って聞け! 今回の作戦、ここでの戦闘が一番失敗できない。他の部隊の失敗はカバーできても、ここでの失敗をカバーするのは不可能だ。それにジャンナ隊を除いて、他の仲間を一人で助ける分、お前の負担は大きい……頑張ってはほしいが、くれぐれも無茶は──」
『はぁ……お前、忘れたか?』
ここまで一緒に戦ってきたというのに、と呆れる飛鳥は、そんな相馬に対していつもの一言を放った。
『俺は、主人公なんだぜ? 失敗なんてするわけねだろ……それに、守るものが多ければ多いほど、主人公は強くなるんだ。だから、お前は安心してそこで見てろ。すぐにブリッジから追い出してやるよ』
「まったく……貴様はいつも変わらんな……行け、飛鳥!!」
『言われなくとも……』
無駄な口上もなしに、飛鳥は深く深呼吸をすると、カタパルトの先に見える青い惑星を確認し、操縦桿を強く握る。
「神野飛鳥、Aアマツ──出るッ!!」
気合い充分の言葉と共にカタパルトから飛び出したアマツはその翼を広げ、宇宙を羽ばたいていった。
……その後、六番アモール生成工場では──
「ヒャッハー! ぶっ壊せーッ!!」
「オラオラオラオラッ!! ローメニアはこの程度か!」
「無人工場とは聞いているけど、やっぱり罪悪感半端ないなぁ……」
割り与えられた破壊活動という任務を、難なく進めていく二番隊の三機は、その凶悪なシルエットの機体の力により、戦火の炎を拡大していった。
「ん……隊長、こちらに接近する機体が!」
「ヘッ、動かない物壊すのにも飽きてきたところだ、全部ブッ倒すぞ!!」
「言われなくてもわかってんだよ、このアマが!! テメェにやる獲物はねぇんだよ!」
「あァッ!? テメェ、人のモン取ってんじゃねぇーぞッ!!」
接近するEGに対して射程の長いガトリング砲による対空攻撃を開始する宗二に零は怒りをぶつけると、あろうことかその砲火を背にし、潜り抜けながらも敵EGを引き裂いていく。
「砲撃やめない宗二もアレだが、やっぱり隊長もかなりアレだよなぁ……」
「なんか言ったか!?」
「い、いえ、なにも」
誉めるというよりは、その操縦技術を脅威に感じた三蔵は、数十の腕による攻撃で辺りの敵や建物を凪ぎ払いながら、二人の問いかけをはぐらかした。
(とはいえ、数が多いな……シャロ、早くしてくれよ)
戦場の中で心配する相手……彼女はフィアーのステルス能力により姿を消したままカグヤ達のいる城内へと進路を取っていた。
……数人の手勢を連れて。
「う、ウルカ卿、姫様は私に任せ、外の敵の始末に向かったほうがいいのではないか?」
絶好の機会だと思っていたディオスであったが、自らの野望をことごとく邪魔するかのようにイレギュラーが発生する。今回は突然同行し始めたウルカ卿であった。
「いえ、あちらはお二人に任せたので問題はありません」
(……まさか、感ずかれて監視をしているのか?)
「問題なのは──」
不安を感じるディオスだが、それは次の瞬間に城内に走った衝撃により杞憂となった。
「な、な、な、何事だ!?」
「全ては二重の陽動作戦……本命はあくまで姫様ということです」
「そこまでだ、ディオス! 姫様を利用しようとする悪党め!!」
「げぇっ、ジャンナ!?」
ローメニア人であり、さらに自分の野望を知るものとして、今一番葬りたい相手が、剣を持ってフィアーのコックピットから飛び降りてきた。
「覚悟ーッ!!」
「ひぃぃーっ!?」
しかし、容赦なく首を跳ねようとしたジャンナの剣は、新たに現れた剣に阻まれる。
──剣の主はウルカ卿であった。
「こうして剣を交えるのは久しいな、ジャンナよ」
「くっ、ウルカ卿……お退き下さい! 奴は──!」
「敵の洗脳に陥るとは……せめて私の手で葬ろう」
(ラッキー、このままこの二人が戦えば、少なくとも片方はいなくなる! できれば相討ちしろ! 戦えー、戦えー)
「ジャンナ!」
「姫様、ご安心を……例え師であったとしても、姫様の為ならばこの命を失っても──!」
「そういうのが嫌だって言いたいのよ!」
「姫様……」
「私を前に、余所見をする余裕があるのか……?」
「ッ!? しまっ──!」
ジャンナの剣はウルカの一撃により空を舞い、次の一撃がジャンナを狙う。
しかし、再び剣は新たに現れた剣に阻まれる。
──正確には、“刀”に。
「二人の絆の前に、無粋なことをする必要があるのか……?」
「片刃の出来損ないで私の剣を止めるか……」
「出来損ないかどうかは、その身で確かめてみるのだな……ジャンナはカグヤを!」
刹那は木刀などではない、白刃の刃をウルカへと向けると、彼をその場に留まらせる。
「……中々の腕と見受ける」
「そちらこそ……」
「チッ、ウルカが奴を抑えなければ誰が──!」
「奴とは誰の事か……聞かせてもらおうか、ディオス!」
刹那とウルカが剣を交える中、コソコソと逃げ出そうとしているディオスの前へジャンナが現れ道を塞ぐ。
「ヤバい……か、カイセル!!」
「ディオス様、こちらも足止めを──くっ!」
「行かせない」
元軍人というスキルを持つシャロは、コックピットから身を出して、マシンガンによる射撃でカイセル達の足を止めさせる。
もうディオスを守る者は、彼の近くにはいなかった。
「終わりだ、ディオス!」
一同が様々な形での終わりを悟った時、城内に二度目の震動が走った。
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