第三章 艦長、そろそろ終盤です。
第二十話 艦長、敵の新型です。
「ったく……ひどい目にあったぜ」
綾瀬贔屓により女性陣にボコボコにされた飛鳥は、罰として学園祭の後片付けの大半を押し付けられ、ぶつくさと文句を言いながら作業を進めていた。
「ま、お前らしいと言うか、なんというか……」
「たしかに、主人公ってのはヒロインにボコボコにされるイベントなんてよくある話だが……」
「いや、そういう話はしてねぇよ……お前がそれでいいならいいけどよ」
一人では可哀想ということで手伝いをする大輝だったが、毎度のことながらマイペースな飛鳥に合わせるのも疲れていた。
「でも、これで世界から追っかけられたり文句言われたりすることはなくなったわけだ」
「方法は……アレだがな」
あの洗脳放送──もとい、世界中を虜にするアイドル生誕ライブにより、世界中にエーテリオンを知らぬものはおらず、その女性陣の根強いファンは男女合わせて数十億に到達し、各国はエーテリオンの事を目の敵にするどころか、大歓迎の姿勢となっていた。
「あとは倒すべき敵……WCか」
「おいおい、あんなのエーテリアス軍団に比べれば、悪の軍団の戦闘機レベルの弱さじゃねぇか。雑魚だぜ、ザ、コ」
「その言い方じゃ、これから強い悪の軍団が来ちまうぞ?」
「ヘッ……それはそれで燃える展開じゃねぇか」
大輝は飛鳥らしい発言に呆れながら「そんな展開やめてくれ」とぼやき、掃除を再開した。
──しかし、大輝はこの後思い出すことになる。
この男が、ことフラグ回収に関しては、彼の望む主人公並みにプロフェッショナルであるということを……。
ビィーッ!! ビィーッ!! ビィーッ!!
「きたわねWC……あとはあんた達を全滅して感動のエンディングなんだからね!」
「世界中を洗脳して、宇宙人駆逐したからって感動要素がどこにあるって言うんですか……」
舵を取りながら小さな声でカグヤの未来図を真っ向から否定する光。
「命、それで相手はどこ!?」
「……艦直上、数は百、接触まで一分」
「な、何よそれ!? ワープもなしに来るなんて、そんなパターン聞いてないわよ! 出せる機体は早急に全機出撃! 急ぎなさい!!」
突発的で不都合な展開に地団駄を踏みながら、目の前へと迫る敵に対し、周りを急かせるように指揮を取り応戦を試みる。
……
「貴理子、出撃できない俺の分も頑張ってくれ」
「はい相馬さん……ですが、私に指揮が取れるでしょうか?」
前回の戦闘でレッドを海へとバラ撒いた相馬は、貴理子に一時隊長の座を譲り、待機することとなっていた。
「問題ない、お前なら出来るはずだ」
「しかし、一ノ瀬零もいないということでの混成部隊……あの阿久津宗二を指揮できるとは……」
「あ……ああ、アイツなら……多分、大丈夫だ」
同じ部屋の住人として、彼の本性を知る相馬は貴理子を元気付ける為に言葉を濁らせながらそう伝える。
「相馬さんがそう仰るなら……私、頑張ります」
「うむ、その意気だ。行ってこい!」
「はい!」
笑顔で返事をした貴理子はブルーのハッチを閉め、出撃準備を直ちに済ませる。
操縦幹を握る手に緊張が走るが、少しでもそれを紛らわせるために部下に声をかける。
「いきますよ、皆さん!」
「あぁっ!?」
「ひっ!」
(相馬さん……私、不安です)
(しまった……二番隊の雰囲気で接しちゃったよ……怖がられて見捨てられないかな……)
共に先行きに不安を感じながら、エーテリオンから隊をなして混成部隊が進撃を開始する。
「よーし、先に行くぜ大輝!」
「ああ…………まさか、な」
いきいきとした飛鳥を見て彼を追うようにカタパルトから飛び出した大輝は、先程の発言と、今までとは違った敵の襲来に一抹の不安を抱えながら、そう呟いた。
「全砲門準備完了! いつでもいけるぜ!!」
「だったら上向けて発射よ! 一斉発射!! 近づく敵は全部凪ぎ払いなさい!」
「合点だ‼」
前回撃てなかった鬱憤もあり、味方の進軍経路などお構いなしにカグヤは嬉々として主砲を敵方へと放ち、次々に撃墜スコアを稼いでいく。
平常運転のエーテリオンに文句を垂れる者も数名いたが、その攻撃に便乗し畳み掛けるように全機が連携を取って敵を撃破していく。
「オラオラッ! 邪魔する奴はこの俺が片っ端からぶっ潰してやるよ!」
(……取り越し苦労──だったかな)
難なく敵を蹴散らす飛鳥のアマツを見て、大輝は肩の力を抜いて戦闘に集中する。
現実にフラグなんて存在しない、そう思って。
──彼はフラグを立てるのであった。
「いきなりでちょっと驚かされたけど、結局はいつもの雑魚ね」
「そうですね。まあ、強敵なんて来てもめんど──ん、エーテル反応? 種類は……砲撃?」
命のシステムモニターに表示された警告表示。それが一体何を表すのかわからない内に艦に衝撃が走る。
「何、直撃!?」
「いえ、攻撃はエーテルの防護壁に阻まれ無傷です」
(……砲撃に合わせてエーテルフィールドが自動で展開した? いや、そもそもエーテルによる砲撃はエーテリオンの主砲、バスター砲以外は未確認のはず。その対処手段がエーテリオンに元から組み込まれていた……?)
始めてエーテリオンを見た時から、建造した、という言葉にどこか怪しさを感じていた命。
そして、今回敵の新たな攻撃パターンにエーテリオンが反応するところを見た彼女はいくつかの仮説を頭で立てながら、その砲撃の元をたどり、各機へと伝える。
──敵の新型が現れた、と。
「フム、どうやら機能は百パーセント生きているらしいな……さすがにこちらが手を焼くほどの力はあるか」
ヘイラーの射撃によりエーテリオンの様子を伺うジャンナ・D・ローゼスは、百パーセントの力を持つエーテリオンを相手をすることに少し難儀を感じながらも、ブースターの出力と重力の力を借り、急降下を開始する。
「なによ、アレ」
「ライブラリーに該当なし、やはり新型です」
「まったく、WCも一筋縄にはいかないってわけね……いいわ、全機WCの新型に攻撃開始! 力の差を見せつけてやるのよ!!」
「っしゃあ! 任せろっての!!」
カグヤからの指示を受けた飛鳥は、敵の新型というフレーズに心を昂らせ、アマツの出力を最大に高度を上げる。
「待て飛鳥! 相手は新型なんだぞ!?」
「知ってるよ! 派手な赤で人型、でもエーテリアスとは全然違う……そして単騎だ! 強いに決まってる」
「わかってて近づくなよ! ったく」
独断専行する飛鳥を援護するべく、大輝も慌てて射撃による支援を開始する。
飛鳥はジャンナに対して、前回のエセ赤ライバルとは違う強さを肌で感じ取っていた。
「来るか……面白い」
「ッ!? なんだよアレ、速すぎる!」
「くっ! 大輝、そっち行ったぞ!!」
大輝の援護射撃をアインやブルーを遥かに上回る速度と機動力で容易に避けると、迫るアマツを軽くあしらい、スサノオへと接近する。
「倒せる奴から片付ける!」
「ヤバっ──!?」
ヘイラーは腰から短い棒を手に取ると、棒の先からエーテルの光が瞬時に伸び、刃が形成され、それをスサノオに目掛けて降り下ろす。
「月下神斬流──新月!!」
「ちっ、邪魔が──だがそんなもので!」
二機の間を切り裂くように現れた刹那のツクヨミ……しかし、ヘイラーはブースターの逆噴射により刃の軌道から身を引くと、降り下ろされたツクヨミの刃を、光る刃で意図も容易く両断する。
「なっ──!?」
「ソレに思い入れがあるかは知らんが──隙だらけだぞ!」
自らの剣を断たれるという事実に衝撃を受ける刹那に対し容赦なく剣を構えると、コックピットに矛先を向けてそのまま穿つ。
「──! 腕が動かないだと?」
「俺をシカトしてんじゃねぇーぞ、赤いのよォーッ!!」
機体の異常に気づいたジャンナは、腕に絡み付いているアンカーを目で確認すると、その先に立つツヴァイを睨みつける。
「今だ、やれッ!!」
「了解だ、阿久津宗二!」
「いくよ、綺羅!」
「はい! 凛さん」
腕を掴み動きを抑制されたヘイラーに、ブルーをはじめとする三機が、銃口を向けて三方向から火力を集中させようと試みる。
「フン……こんなもので捕らえたつもりか!? そちらとは性能が違う!!」
「なっ、腕一本の力で機体が!?」
「四機仲良く静かにしていろ!!」
「くっ、やはり私では──!」
「ちょっと、こっちに──きゃぁっ!!」
「凛さ──きゃあぁぁぁーっ!!」
ヘイラーがグッと力を入れて腕を引くと、ワイヤーと繋がるツヴァイはブースターによる踏ん張りも虚しく機体を振り回され、ヘイラーを中心にブルー、グリーン、イエローの順に次々衝突していき、ジャンナがワイヤーを腕から振り払うと、四機は団子になって海へと落ちる。
「戦意喪失2、戦闘不能4……見た目は少し違うが、所詮はEシリーズか……あとは姫様を──」
「俺を忘れてんじゃねぇぇぇーっ!!」
「まだ元気なのが一機いたか……まあいい、たった一機でなにが──」
圧倒的な戦力差に余裕を感じていたジャンナ、故に予想よりも上回るアマツの素早さに対応が遅れ、乱射された銃弾が数発機体を掠め、抉る。
「──っ! 旧型風情が私のヘイラーに傷をつけるか!!」
「弾が当たるんなら、倒せんだろ!!」
「実体剣を二本持ったところで!」
万物を断つ光の刃がアマツ目掛けて走る。
そのスピードは小型WCの突進よりも速く、並の腕では同型機ですら避けるのは困難である。
──並の腕、ならの話だが。
「遅いッ!!」
「バカな!?」
左腕一本を犠牲にしたものの、アマツは斬撃をくぐり抜けヘイラーの懐へと入り、思い切り機体を激突させ相手を怯ませると、その隙に武器を持つ右腕を断ち切る。
「くっ、旧型と油断しすぎたか……距離を取って遠距離から──!?」
後退し、小型のエーテル砲での戦闘に移ろうとするジャンナだったが、飛鳥はそれを許さないかのように右手のブレードを投げ捨て、ヘイラーの腕を掴む。
「距離なんか取らせねぇぞ」
「掴まれたか……だが、それでは攻撃できまい。時間稼ぎのつもりか?」
「アマツのライフルにはこういう使い方も出来るんだよ!」
アマツのバックパックから投げ捨て防止ブースターを搭載しているライフルが切り離されると、ライフルはブースターによる単独飛行により、その銃口をヘイラーへと向ける。
「自律攻撃が可能な銃か! ちっ、離せ!」
「この、じっとしてろ! 照準が合わないだろうが!」
用途外のためライフルの姿勢安定に時間をかけている間に、ジャンナは掴まれた腕を振り払おうとするが、腕はアマツの脇でガッチリと挟まれており、力の差があっても振り払うことができない。
「……やむを得ない、ならば!」
「うぉっ!?」
「敵、高速で移動開始。掴まっているアマツ、エーテリオンから離れていきます」
「あのバカ……!」
振り払えないのなら、と、アマツを連れたままヘイラーの最大出力で移動を開始する。
未知の速度に驚きながらも、距離を離されたら打つ手がないと理解している飛鳥はその腕を掴み続けた。
「まだ離れないか! 中々タフな奴だが、いい加減しつこい!」
「そんなに掴まれるのが嫌かよ! うっ……少し酔ってきた」
上下に、左右に、時に回転し、時に緩急を付け、腕に取りつく異物を切り離そうと、もがくように変則飛行を繰り返すが、海面に叩きつけようともアマツは一向に離れようとはしなかった。
──そして
「ハッ、お前の動き──もう見切ったぜ!!」
「なっ──!? コイツ、こちらの勢いを──!!」
今まで掴まっているだけのアマツだったが、急カーブの途中、進む方向とは逆方向──つまり、曲がらずに直進する方向にへとブースターを吹かせる。
制御する暇も、姿勢を取り直す暇もなく勢いをつけられたヘイラーとアマツが向かう先──それは自身がヘイラーに何度も叩きつけられていた海面だった。
ズドオォォォーン!!
勢いをつけた二つの巨大な質量は海面に接触すると、大きな水柱と音を立て海中へと沈む。
──その後、浮き上がることもなく……深く、深くへと。
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