本作は神の視座である。
うっかりとミスリードされたまま読み切ってしまった。
もしかしたら墨の凛さんが卓を囲んで「探索者たち」というルールブックで遊んだ結果であるかもしれない。それはさておき、
TRPGにはダイスロールという決まりがある。
なにごとにおいてもダイスを転がして出た目の数値で行動結果が可否されるというもの。
主人公である鈴森くんは幼馴染に請われて深淵研究会なる組織に入会してしまう。そんな主人公が発現した特徴が「判定」。
直後の行動が成功するか失敗するかが「判定」できてしまう異能。
これから誰か(自分も含め)が行う行動の結果がやんわりと知ることができる。失敗するか成功するかしか分からないけど、目星はつけられるわけ。
例えば探し物をするとき、目星があれば助かりますね。
本作はクトゥルフ神話の神話生物たちが跋扈する世界で、「TRPGの特徴」を異能として身に着けた鈴森くんたちの探索譚である。
TRPGリプレイ小説かと問われればそれはきっと違って、
「鈴森くん」というジャンルなのだ。
ちなみに「火星の花」エピソードがとても素晴らしく面白かったです。
メタな表現と主人公の特徴を絡めて表現する発想や、魅力的で名前がスゥっと入ってくるキャラ、そしてテンポの良いストーリーテリングが最高です。
また、リプレイ小説という形でしかできない魅せ方に思わず唸ってしまいました。自分は卓ゲからクトゥルフに入った身の上なのでこういった素敵なリプレイ小説から多くのラブクラフティアンが生まれることを心より祈っております。
今の時代、今の時代の潮流、そして読者層、全てをきっちりと読みきった上でしっかりと胸に届くものを書いたクトゥルフの名作です。
クトゥルフに興味が有る全ての方が楽しめることは間違い有りません。
最後に。
ちょっと夢子ちゃんが可愛らしすぎて僕最高にツボってしまいましたよ! 大好きですよああいう子! 無性に甘やかしたくなるんだけどこれって恋かな恋! 恋だね!
お目汚し失礼いたしました。
「クトゥルフ神話」と「テーブルトークRPG」。
以前から両方のジャンルに興味を抱きながらもなかなか踏み出せずにいた初心者ですが、物語にすんなりと入り込めました。
とても読みやすくキャラクターも楽しいです。それを壊すことなく不気味さと不穏な空気、じわじわと脳を蝕むような呪詛の雰囲気が醸し出されており、
そのような中、謎解きゲームのように展開する「探索」は読んでいてワクワクしました。
「TRPGのリプレイ?」と身構えずとも、純粋に「小説」「読み物」として楽しめる作品だと思います!
……それにしても、TRPG、やってみたいですね。ますます想いを募らせてしまいました。
近年アニメ化された「這いよれ!ニャル子さん」はじめ、多くのゲームやアニメ、マンガや小説などで使われる「クトゥルフ神話」のモチーフ。多少なりとも原作を知っている人の興味を惹くには有効ですが、知らない人には敷居が高く感じられてしまうかもしれない、両刃の剣。それをうまく料理して初心者にも楽しめるようにしているのが本作の特徴です。
「クトゥルフ神話」と呼ばれる一連の作品群で描かれた出来事は、作中で実際に起こったこととして扱われています。それらのできごとについてほとんど知識のない主人公の鈴森恭平に、十分な知識と対処法を持ったヒロインの伊吹みのりたち「探索者」がレクチャーする形で、自然と「ドアを開けるときは必ず向こう側を確認すること」などの「心構え」が伝えられます。
守らないと死ぬ、あるいは危険にさらされるという意味で、ホラー映画やゾンビ映画における「カップルは早めに死ぬ」などの“おやくそく”をイメージしてもらえば近いでしょう。それらをうまく盛り込みながら、舞台を日本に移して展開していきます。
濃いクトゥルフ者の方たちは何も言わなくてもタイトルだけでどんな話か、サクッと理解して読み進めていくことでしょう。
自分はそこまでしっかりクトゥルフ神話を通ってきたわけではない初心者ですが、しっかり楽しめました。まったく知らなくても「こいつは何を言っているんだ?」「なにかヤバイものが蠢いているな」といった感覚の一端に触れられることでしょう。
随所に挿入される【判定】(ダイス)という記述は、あまり気にしなくても読んでいけると思います。どうしても気になって詰まってしまうという人向けに簡単に説明すると、TRPG(テーブルトークRPG)というゲームの最中に、「ビンのフタを開ける」という行動をするとします。サイコロを振って3以上が出れば成功で、1か2がでれば失敗というのが【判定】(ダイス)です。ほかにも、力(STR)や器用さ(DEX)などの数値によって、成否の判定がなされます。それによってその後の展開が変わるという、分岐がここにあったというものです。
主人公の鈴森くんは、この【判定】の成否を知覚できる能力の持ち主です。本人は意識していなくても【判定】が起こるということは、ここに何かあるはずとあたりを調べたり、自分の判定が失敗したから、他の人に調べてもらおうといった判断が可能になっています。TRPGの要素を、スムーズに話を進行させるために落とし込んでいることも、見事なく風だなあと恐れ入りました。