第5話 ちょっと待って、聞いてない

教室に静寂が包みこむ。


私は勿論のこと涼も黙秘を決め込んでいた。


 今まで、どんな案件を取り扱ってきたのかは知らないが、もしかしたら“告白を手伝って”というのは珍しい依頼なのかもしれない。 二人とも動いたら負けといわんばかりに、お互いの出方を伺っていた。


 「ゴメン…、やっぱりこういうのは専門外だったのかな?」


 答えを待たされたためか、表情に不安を覗かせる。

 私も、どう答えたらいいのかわからず涼の方に視線をやる。と、アイツも無言で視線を送ってきているところだった。ついで、その目が語っている。


 “お前が答えろ”と。


 なんで私が!? とこちらも無言で抗議するが完全無視。

 新人の異論は当然の如く聞き入れて貰えず、私は溜息交じりに答えるしかなかった。



 「…まあ、なんというか……」


 考えてみれば、手伝ってと言われどうすればいいのかなんて誰にもわからないのかも知れない。


それはきっと洋介も。


 ───じゃあ私はどうすればいいのか?


 なんて……そんなの決まってる。

 安い挑発に乗るつもりもないけど、やることはやらないとね。


 「予想してたような仕事とは違ったけど…まあ、しょうがないね」

 「───っ!?じゃあ!」

 「ええ、今日からよろしくね、洋介くん」

 「~~…うん!!こちらこそよろしくね!!如月さん!!」

 「……………」


 元を辿れば依頼を出して来たのは洋介なのにこの喜びよう。こちらとしては、仕事を受けただけで、そんな大袈裟に喜ばれると気恥ずかしくなる。

そんな大袈裟な感謝を目の前にされ、なにを声に出せばいいかわからず、つい横を向いてやり過ごす。視線を泳がしていると、やけに仏頂面した奴と自然に目があった。


 「勝手に話を進めておいて何も答えてやらないのかね。流石にあきれるよ」

 「勝手に進めてって…いや、あんたが私に話ふったんじゃん」


なにを仏頂面してると思いきや、自分で言ったことも忘れたか。


 「別にふってなどいないさ、ただ、僕が答えるよりも君が答えた方が良いと思ってね」

 「え?なんでよ」


 さも当然だといわんばかりに答える涼に、すかさず反論の声を上げる。

 だって普通に考えておかしいでしょ。依頼に対する答えなら別に、涼が答えたところでなんの問題もないはず。


 「確かにそうだ。しかし、それは僕が協力する場合に限る。言ってる意味が分かるか?」


 いいえ、まったくわかりません。


 「この問題は君達だけで解決して貰うと言っている。だから君に答えてもらった」

 「───っ!ちょっと待ってよ!?聞いてない!」

 「今言った。元より、この件に関しては君に一任するつもりだったしな」


 元からというからには、私が来る前から、新人が来たらこの依頼を一任するつもりだったのだろうか?それとも私だから任せたのだろうか?答えはわからないが、どちらにせよ納得出来る理由ではなさそうだ。


 「何急に知らん振りしてんのよ!私達を頼りに来てるんだから、あんたも協力しなさいよ!」

 「涼君は、こういうのは苦手だったりする?」


 目の前で担当の押し付け合いを見せられ若干居心地悪そうに問うてくる洋介。


 しまった……怒りのあまり彼の存在を忘れてたけど、こんなやりとり見せていいわけない。


私は、努めて冷静を保ちつつも、


 「そんな顔しなくてもいいわ、洋介君。私が協力させるから。ていうか、一応この部活の長なんだから、やるのが筋よ」

 「そ、そうかな?」


 無理強いは良くないんじゃ、と付け足すと自信無さげに私達を見比べる。無理強いっていうか、手伝うのは当然の責務でしょ。


 「それも無論だ。手伝いが必要とあらば手伝う。だが、ことがことだ。あまり、人数を増やしても変に怪しまれるだけであって、実際協力してやれることも少ない。違うかね?」

 「ぐぬ…!ま、まぁ確かに……」 


 言われてみればそのとおりかもしれない。しかも、適当なことを言って誤魔化すだろうと思っていたら、びっくりするぐらいの的を得た正論で説得力は二倍だ。

 確かに、協力といったところで、日陰者、黒子に徹するしかない。あくまで主役は彼、洋介ただ一人である。従って表立って行動できるのも彼一人ということになる。今から告白するっていう時に赤の他人がうろちょろするなどありえない。確かにそれはそう。


 だが、私にはもう一つ別の疑問がある。


 「あーもうわかった。それはわかったけど、あなた始めっから私に任せようと思ってたって言ったじゃない。あれはどういう意味なの」


 率直な疑問。

 大勢で行動できないから私一人でやるのは理解できた。が、それでは初めっから私に任せる理由にはならない。

 涼は理由を聞かれるのを予測していたのか、めんどくさそうな素振りも見せずにこともなげに答えた。


 「簡単だ。俺はまだ、君を認めていない。だから、これはテストのようなものだと思ってくれていい」

 「ちょ、ちょっと!なによ急に!!」


 思わず立ち上がる。一部始終の説明は受けたがテストがあるなど聞いていない。


 「言ってないからな。それに、話の途中に口を挟むんじゃない。まだ続きがある」

 「…………」


 続きあると言われては聞かざるを得ず、お望みどおり、むーっと口を結んで席へと座り直す。なんなんですかいったい。


 「良いか?なにも、完璧にこなせと言っているわけではない。君の雑な性格は、この数日間でなんとなく理解している。故に期待はしない。この総務部を続けるにあたり僕の助手としてやっていけるかどうかのテストだ。普通であればそれでいい」

 「…………」


 人知れず、こめかみに怒りマークを付けると、意識もせずに拳を握る。

 どうして、コイツはこんなにも人をイライラさせるのか。もしかして狙ってやってるの?わざわざ座って話の続きを聞いたのがバカみたい。


 「………ッッ!」


 もう我慢の限界だった。


 「———あんたねぇ!」


 私は勢いよく立ち上がると机を叩いて睨みつける。


 「わかったわよ!私一人でやってやるわよ!大体、あんたとは馬が合いそうにないし、私一人のが良いぐらいだわ!それと、」


 止まれない。感情にまかせ、勢いよく宣言する。


 「私は私の為に協力するの!テストなんかどうだっていいし、陰湿なあんたの助手になるためとかそんなんじゃ絶対ない!勘違いしないでよ!いい?わかった!?」


 感情に任せて、まくし立てる。

 気が付けば私は私の怒りを全力でぶつけていた。本気で怒るなど、以来記憶にない。


「…………」

「………あっ…」


 激怒した瞬間に場が凍りついたかのように止まる。


 そんな冷たい空気が、頭を冷やせとでも言うように私をさして冷静にさせる。

 やってしまったと心の中で叫びながら、こうして感情的になったあとは決まって自責の年に駆られるんだよなと思い出す。


 「あー、ああーと…その……」


 今度は明らかに私が言いすぎた。

 おずおずと、席に座り直し下を向く。たまに感情的になるとこれだ。アイツが悪いとはいえ、怒った私も悪い。


 「まぁまぁ、如月さんもそんなに怒らないで、ね?ほら、涼君も悪気があったわけではないんだし」


 いや、悪気はあったでしょ?と突っ込みたい気分をなんとか押さえ、バツが悪くもこのままではいかず視線を上にあげると、視線の端に映る涼は両肘を机に付いたまま手を組み、それを口元に当てるとジッと前を見据えていた。


 だから、口元が見えた訳ではない。


 訳ではないが、完全に頬が緩んでいたのを私は見た。


 「やめて!止めないで洋介君!!」

 「せっかくいい具合に落ち着きそうだったのに、涼君笑わないでよ!」


 私を抑えながら、洋介が避難の声をあげる。

 それを見て、今度は手を崩し涼が満面の笑みを見せる。……やっぱり笑ってやがった。


 「まぁ、なんだ……」


 ここで何か言おうものなら、また喰ってかかるところ。だが、涼もそこまでバカじゃないのか、引く所は引くようで、


 「君の気持ちはわかった。だが、一人でやってもらうのは事実だ。相談には乗るが、基本的に僕はあまり関与しない。いいかね?」


 そう言って、私を見る彼の顔には、いつ消したのか聞きたいくらいに、もうバカにするような笑みはなくなっていた。


 一歩引く───というよりさらに前に出てきて本気でやれるのか、仕事を受けるかどうか聞いてくる感じだ。


 「フン………」


正直、なにを今更と思う。


 「望むところよ、これぐらいやってみせるから」

 「───そうか」


 涼はメガネを外して視線を横へと向けると、それだけ口にして返事をするのだった。




 担当決めを終えてからしばらくして、早速告白までの作戦を話し合うべく、再び席へと付いて話し合いを始めた。


 「今後の方針を決めていこう。洋介君、告白までの流れや協力して欲しい内容というのを考えているのかね?」


 話を振られた洋介はその件について、しっかりとプランを考えていたのか照れながらも饒舌に話し始めた。


 「告白の仕方とかは、自分なりには考えてあるんだ。その子、あまり派手な子じゃないからシンプルに告白するつもり。どこか、人のいない所に呼び出してさ」

 「うわぁ……///」


 当たり前だが、さっきまでの話とはうって変わり告白の話となって、ちょっと恥ずかしい。

 良いアドバイスができるかはわからないが、人畜無害な感じの洋介に呼び出されたらギャップと相まって良い感じなのではないだろうか。


 「そ、そうかな///そう言ってもらえると嬉しいけど。でね、まぁそれは良いとして…僕が協力して欲しい所っていうのは別にあるんだ」


 言って、自分の体を人差し指で指す。


 「どういうこと?」


 聞かれ、洋介は恥ずかしそうに照れながら笑う。


 「僕ってさ、ほら、地味でしょ?見た目がさ。だからまず、見た目をどうにかしたいなって思って。本当は友達とかに頼むのが良いんだろうけど、僕、こういうの頼める友達ってなかなかできなくて」


 確かに、学校で喋ったり一緒に帰ったりする友達は簡単にできるが、放課後に一緒になって買い物に行くとなると別物だろう。ましてや好きな人に告白するのだ。友達だからこそ、知られたくないこともある。だから、ここに来たのだろうし。だが、ここでまた一つ疑問が浮かぶ。


 「見た目を変えたいって、告白するんでしょ?そんなの今更じゃないの?その好きな人と喋ったことないの?」


 喋ったこともない、俗に言う一目惚れみたいな関係性なら見た目を変えて告白するのは、相手の好みがある分、悪くないと思う。しかし、知り合いだとしたら話は別だ。いきなり気合入りまくり、髪型変えまくりの、『あなた誰ですか?』状態で告白したところで失敗するのが目に見えている。


  そこは、涼も同じ疑問を抱いたようで、

 「場合によっては逆効果かもしれないな」

 「そういえば、僕と相手のこと何も話してなかったね。あのね…」


 また、もじもじし始める。もうそれいいから、洋介君早く言って。


 「高嶺の花って言われちゃうかもしれないけど……僕の好きな人って、篠田真澄さんなんだよね」

 「ああー……あの子かぁ………」


 篠田真澄

 彼女は、この学校トップクラスの美人で、誰でも知ってる有名人だ。

 人あたりもよく、教師からの信頼もあつい。また、その人あたりの良さから、告白された数は山ほどいると聞く。まあ、振られた数も同等なので一部から反感を買っているらしいけど。


 「如月さん…なんか詳しいね。綺麗だよね、女性から見てもそう思うでしょ?」

 「まぁ綺麗よね。実際、容姿だけならこの学校でもトップクラスだと思うけど…」

 「?」


 含みのある言い方が気になるのか、洋介が疑問符を浮かべこちらをジッと見つめている。内心ではあまり話したくはないのだが、隠し通した所で、これからは協力していかなければならない。


 一呼吸分のため息をつくと、仕方なく答えることにした。


 「そこまで、喋ったこともないし、私はほとんど見ていただけだから、洋介君の前では言い辛いんだけど…彼女のこと、あまり好きじゃないのよ」

 「その口振りだと、同じクラスだったのか?」

 「ええ、去年の話よ。篠田さん凄く人当たりも良いし、クラスの誰とでも分け隔てなく接していて、担任からも信頼されてた。でも──」


 そこまで言って言葉に詰まる。やっぱり言い辛い。しかし、私の気持ちを察したのか涼が代わりに代弁する。


 「つまり、逆にそれが胡散臭いと言いたいのかね?」

 「───そう。なんかね、気持ちが見えないの。表面しか見えないっていうか…始めっから疑ってかかる私も悪いんだろうけど、どうにも彼女のことが信用できない。なにか裏がありそうで……───ああ、ごめん。だからなにって話だよね」


 そこまで話して内心言い過ぎたと後悔する。少なくとも今から告白しようとする相手に話す内容じゃない。


 「そんなことないよ、見た目に騙されてるんじゃないかって言いたいんでしょ?でも、大丈夫だよ如月さん。僕は知ってるんだ、彼女がどれだけ優しいか、彼女がどれだけ裏表のない存在かを。上辺だけ見て言ってるわけじゃないんだ」

 「うわあ……」


 付き合ってもいないのに、自信満々ドヤ顔で言い切ってくる洋介にドン引き。まさかストーカーでもしてたの?


 「し、してないしてない!ストーカーなんてしてないよ!ちゃんとこれには、理由があるんだから!」


 さも、心外だとプリプリ怒る。


 しかし理由……ねえ…


 これは部活であり初仕事でもある。だから決して面白がってる訳ではない。そうではないが、理由があると言われては聞かずにはいられないのが人間の性というものだろう。協力するんだし、話してくれるよね?


 「う~~やっぱり話さなきゃダメ?恥ずかしいんだけど…」

 「なにを今更。それに、私が彼女のことを今以上に知ることって大切だと思わない?彼女のことを知れたら、女性目線で告白や他のことでもアドバイスがしやすいし」

 「だな、話した方が君の為になる」


 ずいっと体を前に詰める涼。この男、案外ノリノリである。


 「うう~恥ずかしいなあ…もう…わかったよ、言うよ。言うけど、少し長くなるよ?それでも良い?」


 二人共、無言で頷く。

 こうして、萩原洋介主観の篠田真澄が語られることとなった。

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