(3) 女の子たちの決意



 SVが退室し、久保田が案内係として部屋に残っている。

 美咲がさくらに小声で話しかけてきた。


 「なんか、こわかったね、さっき」

 「うん」


 いずみの視線に気が付き美咲があわてて


 「いや、あの、あなたが怖いというわけじゃなくて!」

 と弁解した。


 さくらはいずみに恐る恐る声をかけた。なんというか、怒られそう、という勝手な予感がしていたのだ。


 「あの……やめるんですか?」


 だが、予想に反して、決意を込めた目をしていずみが答えた。


 「やめるわけないわ。私にとってチャンスだもの」


 そのまま立ち上がり荷物をまとめる。


 「私は向かいの部屋にいく」



 入構証に「田澤たざわ」と書いてる大学生ぐらいの女性が若干太いが美しい脚を組んだまま、上半身だけいずみに振り向いて声をかけた。


 「じゃあ、なんで、さっきあんな感じだったの?」


 いずみは、荷物を持ったまま、クールな笑顔を浮かべていた。


 「だって……みんな、本当は聞きたかったんでしょ? なんかただのバイトじゃないのは聞いてたけど、やたら時給はいいし、レッスンまで受けられるなんて怪しいと思ってたでしょ?」


 「……確かに」


 舞が同意するようにつぶやいた。


 ショートカットのボーイッシュな子も同じように感じていたらしい。


 「こういうのやったことないから、これが普通なのかなって……」


 その隣に座る丸めがねの女の子も、ふんふんとうなずいていた。広森はその様子を面白そうに見ていた。組み合わせが正反対だからかもしれない。美咲はこの前見たプロダクションのWEBサイトのことを思い出した。


 「なんか、レッスンスタジオとかだと、ひと月1万5千円ぐらいするらしいけど」


 いずみが腰に手を当てて話を補足した。


 「それは初心者の話。本格的になると、ほかにも個別レッスンとかでもっとかかるわよ」

 

 なんか詳しいんだ……経験者なのかな……

 さくらがそう思ったとき、ピンと話がつながった。確かに、この顔、どこかで見てる。


 「……あ!……駅前で撮影……」


 いずみがそれに気が付く。

 荷物を改めて持ち直して、ちょっと苦笑いしていた。


 「ローカル雑誌の表紙なんて、コネさえあれば誰だってなれるわよ」


 じゃあ、とさくらと美咲に声をかけ部屋から出ていった。

 久保田が向かい側の部屋へ案内していた。


 広森の前に座っていた、ちんちくりんな中学生にしか見えない女の子がつぶやいた。


 「雑誌とか出てるって、モデルさんなのかな」


 モデルさん……?


 なるほど、たしかに、そうかも、とさくらは思った。


 美咲はその話を聞いて俄然やる気が沸いたらしい。


 「ということは、私たちもグラビアとか出るかもしれないってことじゃない? いこう! 私はやるよぉ!!」


 荷物とまとめると、さくらの手を引いて隣の部屋に移動していった。

 



 残された子たちが顔を見合う。口を開いたのはボーイッシュな女性だった。


 「改めて聞かされるとさ……うーん」


 一瞬沈黙が続いたが、誰に聞かせるでもなく舞が思いを口にした。


 「でも、私、さっきのオネェみたいな人の話、ちょっと感動したな……」


 みんなが舞を見た。それに気が付いた安浦浜が「へ?」と顔を上げる。

 広森がやさしい笑顔で話を促した。恥ずかしいのか、舞は視線を床に落として自分に話しかけるようにつぶやく。 


 「わたし、秋田に来る前は千葉に住んでて……小さいころからなんどもテーマパークにいってて……やっぱり、思い出とかいろいろあるし。こういう場所、大事に思う人がいるのは何となくわかるよ。……それに、作り話とかじゃなさそうだし」


 顔を上げると、みんなが見ている。舞はうん、頷くと立ち上がった。


 「私は、やるよ。やってみないとわかんないし」


 舞の決意表明は、ほかのみんなにも広がったようだった。

 今度は田澤が立ち上がる。


 「じゃあ、私も行こうかな。みんなはどうする?」


 丸メガネの女の子もが立ち上がった。


 「一緒!」

 「えーと、一緒に行くってこと? じゃあ、うちもいこうかな」


 ボーイッシュな女性が女の子の短すぎる言葉を翻訳しながら、自分も立ち上がる。広森も、その前のちんちくりんな女の子もみんな立ち上がった。

 みんなの顔からは迷いはなくなっていた。

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