姫路涼の二重人格

 僕には小さなときから一日おきに文字でのやり取りをしている相手がいる。相手は俺。僕の事を指す一人称ではなくて、彼が自分の事をそう呼んでいるから僕もそう呼んでいるだけで名前は知らない。


 幼い時の微かな記憶で僕は俺に名前を聞いたはずだけれど、その記録はどこにも残されていない。現在の俺は僕の中で俺という人物として確立されているので名前を知りたいと思う事も無い。


 俺は僕と鏡合わせのような存在だった。


 僕が左利きなのに対して俺は右利き。


 僕が甘いもの好きなのに対して俺は辛いもの好き。


 僕の得意教科が国語なのに対して俺の得意教科は数学。


 インドアな僕に対してアウトドアな俺。


 お母さんが好きな僕とお父さんが好きな俺。


 女の僕と男の俺。


 知れば知るほど僕と俺は真逆の存在で、僕と俺は互いに自分の持っていないものを持つ俺と僕を羨ましがり、毎回やり取りの最後には、


 俺になりたい。


 僕になりたい。


 そう書き記していた。


 そして今日も数学の授業で一番難しい問題をクラスで唯一解いたと文字だけでも十分伝わるほど喜んでいる俺に対して数学の簡単な問題でさえもスムーズに解けなかった僕は羨ましく思い『俺になりたい』そう記した。




 俺には小さなときから一日おきに文字でのやり取りをしている相手がいる。相手は僕。俺の事を指す一人称ではなく、彼が自分の事をそう呼んでいるから俺もそう呼んでいるだけだ。


 僕は俺と鏡合わせのような存在だった。


 俺が右利きなのに対して僕は左利き。


 俺が辛いもの好きなのに対して僕は甘いもの好き。


 俺の得意教科が数学なのに対して僕の得意教科は国語。


 アウトドアな俺に対してインドアな僕。


 親父が好きな俺とお袋が好きな僕。


 男の俺と女の僕。


 知れば知るほど俺と僕は真逆の存在で、俺と僕は互いに自分の持っていないものを持つ僕と俺を羨ましがり、毎回やり取りの最後には、


 僕になりたい。


 俺になりたい。


 そう書き記していた。


 そして今日も国語の授業で一番難しい漢字をクラスで唯一書けたと文字だけでも十分伝わるほど喜んでいる僕に対して簡単な漢字でさえもすぐには書けない俺は羨ましく思い『僕になりたい』そう記した。


 そう記して俺は、


「不可能だろ」


 と、自分で自分を笑う。


 だって、僕は自分では気付いていないだけで、誰からも知らされていないだけで、俺が自分に足りないものを満たすために作り出した別人格なのだから。

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