姫路涼の仲違い
「ふざけるな!」
僕は激怒した。後にも先にもこれ以上怒る事は無いだろうというほどに。
「お前とはこれ以上やっていけないな」
友人、今となっては友人といえるのかどうかわからない男、川野流は僕らにとって大事なものであり思い出である薄汚れたノートをゴミ箱に放り捨てて作業場から出て行った。
「くそっ!」
僕はむしゃくしゃした感情を右手の拳に溜め込んで思い切り机を殴った。
そんなことをしてもただ拳が痛いだけで僕の感情に何ら変化は無く、僕は文字に書き表すことが出来ない言葉を叫びながら一心不乱に頭を掻きむしった。
「こんにちワ~オ! 先輩今日は随分と荒れていますね」
「咲か。悪いけど今は一人にしてくれないか。どうしようもなく機嫌が悪いから咲に八つ当たりしかねない」
僕がそう言うと後輩の真矢咲は何故かわからないが、床に倒れ、腹を抱え、呼吸もままならないほど爆笑した。
「いや~ 先輩、面白い事言わないで下さいよ。わたしを殺す気ですか? 今日は一段と人を殺しそうな目をしていますけど」
「何の話だ?」
「だ~か~ら~ 今日の先輩はいつも以上に人を殺しそうな目をしている。って、そっちの話じゃないですよね。ごめんなさい。睨まないで下さい」
機嫌が悪いと忠告したのにもかかわらずいつも通りへらへらと穏やかな笑顔を見せる咲を僕はつい睨みつけていたらしく咲は怯えたフリをしていた。
「涼先輩と流先輩、両先輩は……。今の両先輩というのは涼先輩のことでは無くて両方の先輩の事を、ってこの説明省いた方が良いですか? そうですか。分かりました。両先輩ともお互いのことが大嫌いで1日50回は喧嘩するクセにわたしがそれは、それは美しく全てを魅了する声で『先輩今日は随分と荒れていますね』と言ったら一字一句違わず『咲か。悪いけど今は一人にしてくれないか。どうしようもなく機嫌が悪いから咲に八つ当たりしかねない』とドヤ顔で言っちゃうくらいに仲良しだから面白いですよね」
咲はうっかり尊敬してしまいそうなほど早口でしかも一度も噛まずに一息で言い切ると美しく全てを魅了する声かどうかは別として可愛らしい顔でケタケタと笑った。
そんな小さく可愛らしい後輩の頭を大きくごつごつとした手が掴んだ。
「痛~い。痛~いですよ。先輩。涼先輩じゃなくて流先輩の方」
「俺と涼は仲良くなんかねぇ」
「そんな事言いながら自分で捨てたノート拾い上げて流先輩はツンデレですね。今どき男のツンデレなんて流行りませんよ。最先端は草食系男子ですよ」
「「最先端ではないだろ」」
僕と流は不覚にも声を揃えてそうツッコんでしまった。
「おい! 俺の真似するな」
「真似したのはそっちだろ!」
「両先輩方仲が良いですね。羨ましい」
「「仲良くない!」」
また僕と
流の言葉が一致してお互いを睨みつけた。それを咲が眺めてケタケタと笑っていた。
「いや~ 両先輩方の仲違いコントは毎日見ていても飽きませんね。いっそのこと漫画家は諦めて芸人になったらどうですか? わたしアシスタントからマネージャーになってあげますから」
「「誰がやるか!」」
咲は僕らをおちょくってケタケタ笑っていた。
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