姫路涼の転換
入れ替わっていた。
残念ながら僕の語彙力ではそのように表現することが精一杯だった。
「夢?」
ならばどんなに良かった事だろうか。いや、夢だとしてもこの姿にだけはなりたくはなかった。
僕と同じ女性なのはまだよかったと言えるだろう。男性と入れ替わるのもそれはそれで悪くはないと僕個人は思うけれど、やはりその姿で生活をしなくてはならないと思うと不都合な所が何点かある。それならまだ女性であったのは不幸中の幸いだ。
不幸中の幸い中の不幸なのは僕と入れ替わった女性が今まで僕が会ってきた女性の中で最も苦手な女性で、幼稚園の頃から13年以上の付き合いである真矢咲だった事だ。
「うわぁ」
入れ替わってしまった理由はわからないけれど、入れ替わってしまった以上は仕方のない事だと割り切って僕が毎晩着ているスーパーかどこかで税抜780円くらいで売っていそうな無地のパジャマとは違い僕が今まで立ち寄った事のないような店で税抜でも1万円を超えていそうなネグリジェを脱いだ途端に僕を嘲笑うかのような主張を始めた身体のある一部分に僕はつい気持ちの悪い虫を見つけた時のような声を上げてしまった。
「人の胸部を凝視してそのような声を上げるのは失礼ではなくて?」
「きゃぁっ」
柄にもなく女性らしい声を出して近くにあった布団で身体を隠した僕だったが、声の主は僕の姿をした咲だった。それにしても、胸が邪魔くさい。適度にならまだ許せるが、16歳でバレーボール程度にまで胸を育て上げた咲はとんでもないバカなのではないだろうか。
「今、涼がものすごく失礼なことを考えていたような気がするのですが」
「咲は(こんなに大きくなるまで胸を育て上げて)バカだなって」
「たとえ、16年と4カ月と13日のお付き合いだからとはいえ言い過ぎではありませんの?」
「それに比べて僕の身体は第三者の目線から見ても健全だと思わない?」
何故かいつもより少し胸が膨らんでいるような気がするのと、持っていた記憶はあるけれど着けたことは一度もない派手な色の下着が制服の上から僅かに透けて見えることを除けばいつも通り健全な僕だ。
「ちなみにコレ、パッドじゃありません事よ」
「なん、だと」
取りあえず腹が立つからこの胸から垂れている2房の小玉スイカを引き千切ろう。そうしよう。
「な、何をしていますの? 私の神聖な手で私の神聖な胸を鷲掴みして一体何をしようとしておりますの?」
「大丈夫。この身体は今僕が入っているから千切れても痛い思いをするのは僕だから」
さぁ、思いっきりやろう。どうせ咲の身体だし遠慮はいらない。
「覚悟を決めた顔をするのはお止めなさい。こうなったら私も……掴めないものはどうしようもありませんわ」
「こんなに大きく育てた自分を恨むが良いさ」
「発言が完全に悪役ですわよ」
「という夢を授業中に見てびっくりした」
「内容はともかくとして結局夢でしたのね」
「千切った感触はあったけど」
「そのような報告聞きたくありませんわ」
「ところでさ、咲の制服の胸の部分が渦巻いたようにしわになっているけどドリルか何かに手術でもした?」
「何に対抗する手段としてそのような手術を受ける必要がありますの? これは、寝ぼけた涼に引き千切られそうになった跡ですわ」
「じゃあ、その感触だ」
「引き千切られてはおりませんが間違いなくそうでしょうね」
夢では随分と強調されていたような気もするが、現実も中々大きくて腹立たしい。
「涼、目が怖いですわ」
「大丈夫、引き千切らないから」
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