第257話

「ねえ」


 いきなり酔っ払いに囲まれた。


 大学生くらいの集団だろうか。クリスマスが近いので男だけでナンパでもしようとしているのだろう。いくつかの瞳が私の姿をとらえている。私は無視して、その場を去ろうとした。


「ちょっと待ってよ」


 そういっていきなり腕をつかまれる。


「やめてください」


 私がいうと、彼の仲間のまわりの男の子たちが下品に笑った。


「かわいいね、きみ」


 そういって手を伸ばして、べたべた身体をさわられる。


「やめてっ……」


 ポケットからだした腕を私は上下左右にぶんぶん揺らす。


 まとわりつく大学生たちの手を振りほどこうとした。


 にぎっていたヴィクトリノックスが私の手から離れて落ちた。音を立てて地面に転がる。


「おい、てめーら」


 声がきこえた。


 私は顔をあげる。


 声のしたほうを見る。


 その声は、正面の男の子のうしろの死角からきこえてきたようだった。


「くだらねーことしてんじゃねーよ」


 風が吹いた。


 暗がりに目を細めた。


「あっ……」


 私は驚きで、声がもれた。





【完】

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4ぶんの1の風のきせき うのたろう @unotarou

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