第250話

「おまけに丹波くんの場合、まだ高熱は続いているし、身体だってぼろぼろだ。いまだになぜあの状況で丹波くんが起きあがれたのか、説明がつかない。それくらいに信じられない」


 そんなことを先生はいう。


 それに。


 私は思った。


 病院側としては、べつの思惑もあるのだろう。


 なんといっても入院患者の部屋に火炎ビンが投げこまれ、それが原因で病棟が一棟全焼したのだ。


 二度とこんなことが起こらないよう、丹波を追いだしたかったのだろう。そのためには転院先の病院への紹介状もよろこんで書いたのだろうと思う。ここにもイコールではない事実と真実がひとつ。たてまえと本音のつかいわけというやつだ。


「もともと彼も最初から覚悟はできていたらしい。こういう事態になった場合、この街からはでていく気でいたそうだ」


 目を覚ました丹波と先生は話しをしたんだと思うと、私はさびしさがこみあげてきた。


「ちょうど私の知りあいのドクターがアメリカの病院にもいるからね。彼はそこに移ることになった。病人としてだから出国も安全だった。丹波くんの命を狙う人たちは空港にはあらわれなかった」


 それで丹波はアメリカのおばあさんの家の近くにある病院に転院してしまったそうだ。


 その家には先にひとりで逃げた丹波の母親も住んでいるのだから、とうぜんといえばとうぜんの選択なのかもしれない。

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