第233話

 車輪のついた音をごろごろ響かせストレッチャーが扉を抜けて近づいた。


 黒スーツが手ぎわよく、丹波をストレッチャーのうえにのせる。


 横たえた。


 そのまま数人がかりでがらがらと引いていこうとする。


「待って」


 私は倒れたまま手を伸ばした。最後尾の黒スーツの足をつかもうとした。


 だが、つかめない。黒スーツは足をとめない。ぎりぎりのところで手から足がすり抜けていく。


 代わりに。


 ストレッチャーの足の部分に手がふれた。


 私はあわててそれをつかんだ。


 がくんとGを感じた。


 ストレッチャーが瞬間、とまった。


「やめて……ください」


 懇願する。うえからは唾液のように容赦のない冷たい視線がふりそそがれる。


「宮沢あああっ」


 割れたガラスの扉はもう意味をなしていなかった。そとの声がこちらにきこえるということは、そとにも私の声がきこえるということだ。


 こちらの異変に気づいた矢野がつかんでいたちんぴらをぶん投げて、エレベーターホールに駆けこんできた。


 私は倒れたまま、そちらに目をむけた。


 黒スーツの連中もそちらを見て足をとめている。


 私はストレッチャーの足をささえに立ちあがろうとした。ひざを浮かして身体を持ちあげる。

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