第230話
無限の数秒間がたったのち、エレベーターは三階のフロアに到着した。
こちらは明かりもすでに消え、音が遮断された一階のホールよりもさらにおとなしい。もの音ひとつきこえない。そとの喧騒が夢かまぼろしであるような錯覚さえ覚える。
しかし、錯覚なんかではない。
すべて起こっているのは現実だ。
私はこのフロア唯一の病室にむかった。
病室には丹波が、先ほど見たときとおなじおだやかな顔で眠っていた。
腕に刺さった点滴も鼻に挿入されていた管ももうはずれているようだ。
麻酔と鎮痛剤が効いているのだろう。寝息を立てる以外、ぴくりとも動かない。
どうしよう。
そんな丹波の顔を見たとたん、私は涙がこみあげてきた。
守ってあげるなんていっておきながら、なにもできそうにない。ただこうしてそばにいることが精いっぱいだ。
情けなかった。
私はせめての抵抗でナースコールのボタンを押した。
それがなんの意味もなさないということは知っていた。だが打てる手はすべて打ちたい。それに落ちこんでいるひまもどこにもなかった。
いや、それはただしい表現じゃない。
正確には、落ちこんでいるひまなどあたえられなかったのだ。
なぜか。
部屋に火炎ビンが投げこまれたからだ。
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