第211話
付属病院のVIP用個人病棟は、一般病棟から離れた場所に隔離されて建物があった。広い場所のまんなかにどかんと一棟。
しかもVIPの待遇はとことんVIPであるらしい。なんと部屋はフロアごとにひとつずつしかないという。
丹波がはいることになったのは、六階建の病棟の三階にあったが、それぞれの部屋にはべつべつに専用の入口が用意されていた。
VIPどうしが顔をあわせることなく自分の病室にスムーズにいけるよう、それぞれのフロアに直通のちいさなエレベーターホールが計六つならんでいるのだ。
「すげえな、まじで」
いっしょに病室まできた天野くんは驚いたようなあきれたようなリアクションをとる。眼鏡の奥の目をきらきらさせ、あちこちをきょろきょろと見まわしている。
「あきれるほどに、おぼっちゃんなんだね」
理子も似たような感想を述べていた。私は意識のない丹波の顔をただ黙って見つめた。
「ひとまずおれたちは帰るか」
そういって天野くんが理子をうながす。目をぱちっとわざとらしくつぶった。
「そうだね」
なにかの合図だろう。理子も異論はないようだ。
「ごめん。ありがと。ふたりとも」
私はふたりにお礼をいった。
「平気へいき」
理子はいう。
「こっちこそ、知らせてくれてありがとう」
笑顔でなぜか感謝までされる。
私はエレベーターのまえまでふたりを見送った。
「また明日」
そういって手を振ると、ふたたび丹波の病室へ戻った。丹波が早く目を覚ましてくれればいいななんて思いながら。
そのときは、それ以外なにも考えていなかった。
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