第210話

 それからは、本当に一瞬だった。


 矢野がまず電話をかける。


 救急車はすぐに駆けつけ、気絶した丹波はストレッチャーにのせられてハッチバックに収容される。


 そのかんに矢野が簡単な事情説明を救急隊員にしたようだ。矢野のいうとおり、救急車はうちの学校の付属病院にむかうことになった。


 つきそいとして私と理子と天野くんが救急車にのった。矢野は自分はビッグスクーターを駅まえに停めているからという理由で救急車にはのらなかった。その場に残って救急車を見送る。


 もっとも自分は殴ってもいないし、この件にはノータッチだともいっていたが。


 救急車はすぐに付属病院に到着した。


 簡単な検査のあと、丹波はVIP専用の個人病棟にはいることになった。このあたりも矢野の指示があったのだろう。


 だが、かん違いなどしてはいけない。これは矢野のやさしさなんかじゃ決してない。


 矢野はただ単純に自分の力を誇示したいだけなのだ。


 丹波が転入してきた日におこなったパフォーマンスとおなじだ。矢野はそういう人間なのだ。


 丹波は風邪をこじらせ肺炎を起こしかけていた。そのうえ全身打撲。左腕に至っては骨がみごとに折れていたそうだ。


 しばらくは絶対安静。


 鎮痛剤と麻酔でおとなしくさせ、そのかんは関係者以外病室にも立入禁止の命令がだされた。


 もっとも安静だ、麻酔だといっても、そもそも意識をとり戻していないので丹波は動こうにも動けないだろうが。

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