第169話
ついた。
アーケードの入口に到着した。
まわりには若い男女がいききしている。傘の華が列をつくり交差して、あちらこちらに揺れている。
私はあたりを見まわした。
丹波の姿は……
ない。
見あたらない。
それはそうだ。
この場所には屋根もないもんな。
私のケータイも修理中で連絡がつかないし、さすがに帰ってしまっているだろう。
私は傘を持たないほうの手でポケットのなかのヴィクトリノックスをぎゅっとにぎった。手持ちぶさたに指の先で軽くこする。もしこれがケータイならば連絡ができるがアーミーナイフではそうもいかない。
足もとに視線を移すと誰かが捨てたポケットティッシュが転がっているのが見えた。なかから飛びでたチラシの紙が地面にべたりと貼りついていた。
「はあ」
その姿はどこか魚の尾のようにも見えた。きっとこれも流れてしまえば泡となって消えていく。
私はそんな状況を確認して、ほっとしたような、もうしわけないような、残念なような、なんともいえない複雑でへんてこな気分になった。
だが、どちらにしてもこれでデートは雨にのまれチラシといっしょにお流れだ。
月曜日、学校にいったら、あやまろう。
そんなふうに思って、その場を離れようとした。
瞬間。
「はっくしょんっ」
盛大なくしゃみがきこえた。
びっくりした。
私は反射でそちらをむいた。
「あっ」
声がもれた。
丹波がいた。
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