第164話
「じゃあ、いってくるからね」
そういって私がでかける旨をつたえると、父はがたがた震えて泣きだした。
「いくな……いくな……」
なにもない時間のなか、ひとりきりになるのが怖いらしい。フローリングに体育座りをして、首をぶんぶん左右に振る。
たまにでる症状だ。うんざりするが、もう慣れっこだった。
「はいはい。大丈夫だからね」
私は父のまえまで歩を運び、肩をとんとんとたたいた。父はぽろぽろ涙を流し、したくちびるをかみしめている。
「午後には、お母さんも帰ってくるからね。それまでおとなしく留守番していてね」
私がそういうと、うんうんといった調子で父は首を上下に振る。わかってくれたようだ。
「じゃあ」
安心して、フローリングを立ちあがる。きびすを返す。玄関にむかうため歩きだそうとする。
と。
その瞬間。
手首をにぎられた。
私は足をとめて振りむく。
「なに。どうしたの、お父さん」
顔をむけると、父はまた涙を流した。
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