第159話

 そんなふうに私の学校生活は、はっきりいってまったくなにも変わらないまま進んでいった。


 あの日約束したように、丹波とは教室ではおおっぴらに仲よくするわけにもいかない。もし私たちがそんなことをしようものなら、矢野たちになにをされるかわかったものではない。


 理子や天野くんにしたって、あの調子だ。たまに話ができるくらい。私の孤立は変わらなかった。


 そのころの私の楽しみといえば、放課後のバイト探しにむかう途中の電車くらいだ。


 丹波がひとり暮らしをしている住まいがある場所は学校から四キロ以上離れたあの駅にあるらしい。


 だからちょうど私と丹波は帰りの方向が合致する。


 べつべつに学校をでると駅で落ちあい、電車のなかですこしおしゃべりをして四つほど先の駅にいく。


 べつにこれが恋とかそういう方面のものじゃないとは思うけれども、こういう時間はやはり楽しい。生きているって心地がする。


 ひたすら孤独に耐えてきている私にとっての唯一のドルチェだ。ほっぺたのうち側がきゅうっとするほど、甘ったるいしあわせ味を感じた。


「じゃあ、また明日」


「またね、初乃」


 そういって繁華街のある駅まえで丹波とわかれる。


 丹波は自分の住んでいる部屋に帰り、私はこの街で新しいアルバイトを探す。

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