第147話
「無我夢中だった。気づいたときには、おれは担任やほかの先生たちに身体を押さえつけられていた。そこでわれに返った。いじめっ子は床で泡をふいて気絶していた。まわりのやつらは、おれのことを悪魔でも見るような目で見ておびえていた。なかには泣きだしている女の子までいた」
当時のことを鮮明に思いだしているのだろう。丹波は気まずそうにしている。
「おかげで、その日からおれへのいじめはなくなった。けど代わりに、やばいやつっていううわさをされるようになった。いじめはなくなったけど、怖がれるようになったんだ。孤独の状況はなにも変わらない。そんな小学校時代だった」
なにもいえない。丹波は続ける。私は黙って話をきく。
「中学にあがると、今度は先輩やクラスのヤンキーや他校のやつらからケンカを売られるようになった。一年のくせに生意気な金髪だっていわれた。そのたびにケンカをした。負けるのが怖くて、勝ち続けた。そうなると今度はまた違ううわさが流れた。丹波正太郎っていうやばいやつがいる。そいつを倒せば名前が売れる。地元のヤンキーの世界じゃ、おおまじめにそんなことがささやかれた。バカらしいよな」
丹波は自嘲気味に笑った。
「とうぜんおれはケンカをするしかなかった。負けるのがいやでやっぱり勝ち続けた。さっきもいったけど、ケンカなんて場数を踏めば誰だって強くなれる。もといじめられっ子のおれがいうんだから間違いないよ」
それで丹波は、あんなふうに暴走族の人たちにも名前が売れていたのか。そのあたりの経緯も話をきいてしっくりきた。
「高校になってもそんな生活は変わらなかった」
丹波はいう。
「じょじょにやばめのやつまでが絡んでくるようになった。おれはもうケンカをするしか自分を守る方法がなかった」
ケンカをするしかない。女の私にはそんな状況は、はっきりいって理解できない。だが、それもかなりしんどそうだなということだけはわかった。
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