第86話

「んー……」


 私は首を左右に振った。それがせめてもの抵抗だ。身体をフェンスにくくりつけられて座らされている今、自由になるのは首からうえの部分だけだ。


 私のくちびるの端をかすり、矢野のくちびると私のくちびるが離れた。口の割れ目と頬の中間に生温かくやわらかい舌の感触が残る。


 気持ちが悪い。


 すぐにでもぬぐいたかった。


 だが、それはかなわない。手は頭上でフェンスに固定されている。


「はははははっ」


 先ほどの舌のようにびしょびしょに湿った矢野の笑い声が響いた。まわりの集団もパニックを起こす私を見てにやにやしている。


「やっちまえ」


 そのひとことに、さーっと血の気が引く。


「それウケルー」


 そういってギャルたちが、揃ってずいとまえにでてきた。


 全部で四人。その四人が矢野をこえ、私のまえまで歩を運ぶ。


「うちらがおさえておいてやるよ」


 昼間、鼻の穴からメンソールたばこの煙を吐いていたギャルが、たんの絡んだかすれた声でみんなにいう。


 そして、次の瞬間。


 足をつかまれた。


 左右にふたりずつがきて、私の足を押さえて無理やりそとにひらいた。おおぜいのまえでショーツがあらわになる。

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