Ⅱ.ひとりぼっちの風見鶏

第64話

 次の日、学校にいくと、私の席にはいやがらせのあとがなかった。鍵のかかったげた箱がぶじであることはもちろん、切りきざまれた体操服が机のうえに積まれていることもないし、机とイスがノリでべたべたにされているようなこともない。


 代わりに矢野たちは違うことに夢中のようだ。自分の机のうえにお尻をのせて座り、鬼の形相で教室の入口の扉をにらみつけている。


 クラスにはほとんどの生徒が登校していたが、その異様な雰囲気にのみこまれ、誰ひとり言葉を発していなかった。気持ち悪いほど、しんとしずまり返っている。


 誰も彼もがおとなしく自分の席につき、教科書やらノートやらとにらめっこしている。教室のムードははっきりいって、硬いというよりぴりぴりしている。


 平たくいえば、最悪だ。


 私はひとまず自分の席に座った。


 朝からなんの作業もしなくていいというのは、いささか拍子抜けしてしまう。


 予鈴が鳴った。


 ホームルーム開始五分まえだ。


 教室のまえ扉がひらいた。


 金髪の転入生が登校してきた。


 がたんと音が響いた。


「きゃっ」


 教室後方から、悲鳴があがる。


「丹波あああっ」


 続いてけたたましい雄たけびがきこえる。顔をむけなくてもわかる。この声は矢野だ。クラスのボスのけもののような咆哮(ほうこう)だった。

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