第61話

「は?」


 そうとしかいえない。


 この男はなにをのんきな話をしているのだろうか。


 私の話をけっきょくなにも理解していないのだろうか。


 矢野と学校と私の関係は、そんなに些細なものじゃない。


「あんたねえ」


 あきれて私は言葉に詰まった。なにをいっていいかわからない。


 すると。


「初乃」


 転入生は私のことをまっすぐ見る。


「あんたじゃない。丹波正太郎」


 おや指をびしっと立ててみずからをさす。そして、したり顔をする。どうやら先ほど私にいわれたせりふをそっくりそのまま返してやったつもりになっているらしい。


 ははっと笑うしかできない。


「ねえ、丹波」


 とりあえず呼んでみた。


「いや」


 横を歩く金髪はまじめな顔で否定する。


「どちらかといえばファーストネームのほうが嬉しいんだけど」


 先ほどのように話の矛先が自分のほうにむかないためか、わざとらしくおちゃらける。


「丹波」


 私は気にせず名字で呼んだ。


「なんならミドルネーム教えるから、そっちでも……」


 あるいは本当にそちらで呼んでほしいのかもしれない。

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