第59話

「おれ、嫌いなんだよ。いじめとか、リンチとか」


 そういえばそんなことをいって、先ほど矢野とトラブっていたなと思いだす。


「昨日のケンカだって、見ていられなくてリンチをとめにはいったわけだし」


 なんともまあ血なまぐさいことをさらっという。


 私はきいた。


「じゃあ、なに。あんたは自分がケンカを売られたわけでも、不良に囲まれたわけでもないの?」


 悪びれもせず転入生はうなずく。


「ただ、いじめが嫌いだっていう理由だけで自分からあんな怖そうな連中につっこんでいったわけ?」


 私にはそういった発想がまるで理解できなかった。


「いや、違う」


 転入生はさらっという。


「昨日はリンチ。ちびがぼこられていた」


 否定するのはそこかよ。


 そう思ったが私はつっこむ気もしなかった。


 どちらにしてもこの男は、自分から不良グループにケンカをふっかけていったらしい。


 でも。


 そういえば……


 私は思った。


 たしかにあのときケンカが始まるまえにはすでに転入生の足もとにひとりヤンキーが倒れてのびていた。


 あれはこの金髪の男がやったものではなく、転入生を囲んでいたほうの男たちがやったのか。


 ようするに仲間割れ。


 そんな場面にたまたまとおりかかった転入生が乱入していったのだ。


 その結果が昨日、私が見た光景だったらしい。


 なんともまあ。


 私は言葉に詰まった。


 せめてもの抵抗で些細な嫌味をいう。

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