第53話

「私がたぶん外部から入学してきたからだと思います」


 パニックすぎてバカ正直に話してしまった。


 これでおそらく転入生にもこの学校の暗黙のルールがわかっただろう。


 だから私なんかと仲よくしないほうがいいのだ。


 いくら街では有名なヤンキーだったとしても、この学校では勝手が違う。そんなものはなんの意味もなさない。


 なにせ学校をぶじに卒業できる権利を、あちら側が持っているのだ。


 そうなってくると私たちその他の生徒がとるべき方針はただひとつ。


 逆らわないにかぎる。それで嵐が去るのを待つ。あるいはとりまきの不良グループのように矢野サイドについて地位の安泰をはかることだけしかない。


 そんなことを歩きながら暗につたえた。


「ふーん」


 なんだかよくわからないといったようすで転入生はすたすた歩く私のうしろをついてきた。


 ななめうしろに気配を感じる。その気配はすぐに私の横にうつる。転入生が私の横にならんだのだ。


「なんで外部からだといじめられるの?」


 こいつはピュアか。至極とうぜんの質問が返ってきた。


「それは……」


 私はため息をついた。なにがあってもこまかく説明しなければいけないらしい。


「はあ」


 さすがに冬とは違うので白い息が可視化されることはない。


 吐息の先では、四月終わりの日ざしがゆっくり角度を浅くしていた。

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