第41話

 あきらめて私は鞄のなかからハンドタオルをとりだした。十五センチ四方の正方形のタオルだ。厚みはあるが、あまりおおきくはない。


 私はじっと手もとのハンドタオルを見つめた。パステルピンクの無地のもの。ブランドはセリーヌ。だいじにつかってきたものだが、つかったぶんだけ一年ぶんのへたりもでている。このタオルは母が入学祝いにプレゼントしてくれたものだ。


「こんなものしか買ってあげられなくて、ごめんね」


 そういって入学式のまえの晩、私の部屋に恥ずかしそうに持ってきてくれた。


 たしかにこのタオルは値段的には高いものでは決してない。だが、母は仕事のあいまのすくない時間のなか流行りものや若い女の子に人気のものをいっしょうけんめい探してこれを選んでくれたようだった。その気持ちが嬉しかった。


 私はタオルをめいっぱいに広げた。


 まずは机のおもてを掃除する。


 タオルを持った手のひらを垂直に立て、一面にぶちまけられたノリをこそぐように掃除していく。


 手のひらをまえに押しだすと、机のおもてで汚れがこんもりもりあがる。白濁したノリと黒っぽい汚れが、机のうえからピンク色のハンドタオルのコットンに移る。


 母のことを思いだし、胸が痛んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る