第20話

「丹波くん、われわれはきみを歓迎しよう」


 そんなオーバーないいまわしで時代がかったせりふを吐く。ちらと見ると矢野は席を立ちあがり、両手をまえに広げている。まるでハグのポーズのようだ。


 私はあきれた。


 なんというか、わざとらしい。


 これは一種のパフォーマンスだ。誰がこのクラスのボスであるかということを、もっとも効果的に転入生にアピールするためにやったにすぎない。


 そんな矢野の行動はただの茶番にすぎないが、すくなくとも既存のクラスメートにとってはそれで充分だった。そのひとことで無関心な二十数名のクラスメートの緊張感の氷が溶けた。


 今まで矢野が黙っていたせいで、クラスのみんなはとまどっていた。ちょっと不良ぽい転入生にどんな反応をしめしていいかわからなかった。


 だが、これでおゆるしがでた。みんなはそう判断した。


 だからそれを合図にその他大勢の無関心なクラスメートの雰囲気が弛緩した。鉛のような空気がほんの一瞬で羽毛みたいに軽くなった。


 どこからかぱちぱちと手をたたく音がこぼれてきた。


 きっと矢野のとりまきの不良グループの誰かだろう。その音はしだいに立体感を増し、すぐに大規模な演奏になった。


 拍手喝采(はくしゅかっさい)。


 私以外のみんなが転入生をむかえいれるためにおおきく手をたたいている。


 やがて教室のあちこちからはタガがはずれたように「かっこいい」とかそういったたぐいの黄色い声が飛びだした。おまけにべつの指笛までが交錯し、一気にやかましくなった。

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