探偵のいらない事件④
しかし、わたしがこうして必死になっても、いや必死になればなるほど、大川は眉をつり上げ呆れるように言う。
「いくら小さな村と言っても、クローズドというには広すぎるわ。人には向き不向きがあるの。ごめんなさいね」
大川は一瞬だけ、力の抜けた悲しそうな顔をした。
わたしはそれを見逃さない。見逃せない。見逃せるならもっと楽に生きてこれた。
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↓↓ここから今回の分↓↓
……そうだ、諦めているからと言って、この子に事件への熱がないわけじゃない。
冷静ぶっても心の芯が燃えている。
悔しいんだ。自分の住む町で起こった事件を探偵が解決したくないわけない。
でも諦めたんだ。諦めた後に、わたしがズカズカと事件についての話を持ってきて、解決したい解決したいとうるさいのを見て、その気持ちがいたいほどわかるから、余計に悔しくなってるんだ。
わざと呆れて見せたり、冷静さを装うのは、わたしに諦めさせるというより、自分に言い聞かせているんだ。
考えろ。本物の女子高生名探偵に解決への希望を持たせるんだ。
自称女子高生名探偵でも、そんくらいできるだろ!
大川の中で存在している、無理だという固定観念を壊すんだ。
探偵には解決不可能だという固定観念の根拠となっている固定観念を壊すんだ。
それはもちろん、
「探偵って、事件のトリック暴かないと犯人わかっちゃダメなの?」
ノートに向けられていた大川の目がぐぐぐっと上昇して挑発的に向けられる。
きた。
わたしは続ける。どんどん言葉がでてくる。
「いやさ、この事件、確かに犯人は適当だけど、現行犯は免れようと必死じゃん? だったら逆に現行犯で捕まえるようにするんだよ。夜に見回りとかしてさ。犯人って、警察のことは警戒してるかもしれないけど、わたしたちのことは警戒しないよ?」
「ちょっと! アナタ、何を言ってるのかわかってる!?」
大川は叫び机を強く叩きながら、その力の流れにしたがうように立ち上がっている。
その声を無視する。もうひと押しだ。
「あとさ、動機! 動機とかから犯人が次にやる事件を予測してさ、ギリギリで助けるの!」
「アナタ! それがどんなに危険なことか! 特に今のアナタは……」
と、ここでチャイム。
律儀な大川は体が勝手に反応したのか再び座る。
でもまだ怒っていて、
「いい!? 絶対にやめなさい! 危険すぎる!
それに、今アナタ探偵として許せないこと言ったわ!
動機?
そんなので事件が解決できるわけないの!
事件の動機なんてわかるわけないし、動機から犯人に結びつけるのなんて無理!」
わたしは無視して席へ戻る。
それでもまだ大川は怒っていて、
「わかった! じゃあ、昼休み、一緒に食べましょう! そこでもうちょっとお話するわ! ちょっと込み入った話もするから屋上ね! いい? わかった!?」
……どうにか、事件について、わたしともうちょっとだけ関わってくれるようだ。
それに、わたしを心配してくれたぞ? こんな贅沢はない。
大川の怒りを無視してクールを装いながら席へ戻るわたしは、心の中がうれしさでギュッと満たされていた。
*
昼休み。
「サナちゃん! お弁当食べよ!」
いつもは竹ノ内さんのグループとお昼を過ごしている空が、どういう風の吹き回しか、わたしを誘ってきた。
しかも飛び切りの笑顔だ。
「よっこらしょっと」
空は学校指定のカバンの底を持って持ち上げ、机が揺れるほどの勢いで置きつける。
そのままのスムーズな手際でカバンのジッパーを開き、ガバっと口を開けて出てきたのはハンカチに包まれた3つの弁当箱で、その内まん中と左の弁当を見比べて、
「お昼はこっち!」
と左を選んだ。
右は早弁、左は本弁、まん中は遲弁ということだろう。登校弁や下校弁もあるのかもしれない。というかそのカバンは弁当箱しか入っていないのか。
口を尖らせながら手際よく弁当のハンカチをほどきつつ箸はもう準備していて、気づいたらもう食べ始めている。
普段のトロいイメージを覆す素早さだ。素早い空ってなんか面白いな。
でも、せっかくだが今日は一緒に食べられない。もっと大事なことがある。
「あ~、ウキウキのとこ悪いけど、今日はちょっとお昼に別の約束があって……」
心苦しさが重くなる前に、早めに切り出した。
「あ、え~」
と空は落ち込むように見せるが、箸も口も止まりはしない。
空のつらそうな顔はあんまり見たくないから、それでいい。
「まあ先客いるなら仕方ないよね」
誰? とも聞かず、一緒はダメ? とも提案しないのは、わたしが誘わないからだろう。
微妙な気遣いのできる女だ。
「じゃ」
竹ノ内さんたちはもう教室にいないし、一度わかれてから合流するのもなんか難しいだろう。結局、一人で食べさせることになってしまう。申し訳ない。
あ、でも、福岡あたりはどうだろ。一緒に食べてあげるよう頼んでみようか。微妙か。
男女混ざって遊ぶことはあるけど、福岡とは友達の友達って感じで、わたしがいないと気まずいのかもしれない。
福岡そのものは、教室で仲のいい男子数人と昼を過ごしているようだ。
「渚くぅ~ん! 入れて!」
自分から男子の輪に向かって行った。なんかちょっとくやしい。
「おうおう! 空ちゃん、どした、どした!」
「サナちゃんにフラれちゃって……、胸焼けするからやけ食いだよ~」
「お? なんすか? ケンカ? めんどいことはやめろよ? あと直前までしてた下ネタ談義はそのまま継続するぞ?」
とわたしに聞こえるようにも言ってくる。
「どの程度だよ」
空が心配なので聞いた。あんまり酷いと許さん。
「うんことかしっことか」
「そっち系の下ネタかよ! もっと高校生らしく生きろ!」
「渚くんのこと、嫌いにならないようにがんばるよ~」
あ、空も若干壁つくったな。
そして振り返り、
「あ、サナちゃん……。朝、ありがとね」
なんだ?
と一瞬思ったが、身を引いたことか。
そんなこと言いたくて昼誘ったのか。本当、微妙に気を使いすぎてコミュ障なんだよな。
「おう」
とだけ答えて教室を後にした。
続く
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