第二編 第二章 *
(これは一体……)
薄暗い部屋の中、男は頭を悩ませる。
ここに来るべきではないと分かっていても、堪えきれずに来てしまった。
それほどに男は今、平静さを失っていた。
紅坂
偶然にも知ってしまったこの事実。にわかには信じられず、紅坂澄代が入院していた診療所を訪れるが、彼女の姿はなかった。また、こうして紅坂博の家も訪れたが、同じように彼の姿はなく、もぬけの殻であった。
本当に、二人は失踪してしまったとでもいうのか。
男は自認したはずの事態に懐疑を示す。澄代が既に自ら動けないことは分かっていた。であるならば、博が彼女と共に消えたか、もしくは誰かしらが彼らを連れ去ったか。
双方共に可能性はあった。
だが、可能性はあるにしても、どちらにも理由がないのだ。
圧倒的に、目的が不足している。
男は力尽きるように、手近にあった椅子に座りこんだ。傍らに設置されている文机に肘をかけ、焦りから来た荒ぶる呼吸を整える。
やはり、これは事実ではない。
矛盾点が多すぎる。
しかし、報道機関が事実を偽る理由はないだろう。
であれば、これは情報源の問題。
情報源自体が歪んでいるのか。
あの日、あのあとに何があったのかを調べなければならない。
男は不意に手を伸ばし、文机の上にある便箋を取りあげた。これを
ならば、自分が今、すべきことは何か。
それを深慮した上で行動する必要がある。
「澄代様……博様……」
男は無意識に、二人の名前を呼んだ。
小さな呟きは暗闇に溶け、部屋には時計の針の音だけが残された。
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